格好のつかない黒羽くんは今日もにぶい。
私は丸顔でもないし,髪だって優しげで愛嬌のあるボブとは程遠い,緩く巻いただけのロング。
それに,バストだって身長だって人より少し大きいから。
可愛い要素は1つもなくて,わざわざ言葉にするなら,大人っぽい,だと思う。
髪を巻くのも,爪が伸びる度に気を使って整えておくのも。
全部無駄だったみたい。
それが1番似合うと思っていたものは,そもそも頑張る方向がおかしくて。
爪の形を綺麗にカットするなんてことは,気付かれないどころか月くんには大した問題にもならないんだろう。
それでも何かしていたかった。
自分が,自分でも月くんにアプローチできること。
月くんがいつか,ふとしたときに考えてくれること。
ただ信じているだけではいけないと分かっているから,自分が何かしていると信じたかっただけだったみたい。
「奥西さん,元気ない? ごめんね,俺いっつも自分の事ばっかで。飲み物買ってくる?」
私は右手を顔に持ち上げて,月くんに向かって笑った。
「大丈夫,ありがと」
そう言うことを,月くんは雪乃さんに言えばいいだけなのに。
私みたいにズレてる月くんは,いつもから回って,逆に関係のない私を落としている。
にぶい月くんは,どこまでもままならなくて。
それでも私は,嬉しいと思ってしまった。