炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
 リアムは満足したようすで目を細めた。カップを持ちあげ、薬草スープを飲みはじめる。

 ミーシャはゆるんでいた顔を引きしめてから、話しかけた。

「陛下。実は……謝らなければならないことがあります」

 リアムは傍に立つミーシャを見上げた。飲み終えたカップをサイドテーブルに置く。

「なに? 話なら座って。聞くから」

 横に座るように勧められたが、立ったまま首を横に振った。

「関わるなと言われましたが、昼間、ノア皇子とビアンカ皇妃に接触してしまいました」
「ああ、その件か。夕方、イライジャから報告を受けた」
「言いつけを守れず、ごめんなさい」
「いいから座って」

 ミーシャはなるべくリアムとの距離を空けて、長椅子の端に座った。
 
「ノアが泣き止むまでなぐさめてくれたと聞いた。世話をかけた。礼を言う。ビアンカのことは、今朝も言ったが気にしなくていい」

「皇子、陛下のことが好きですって。役に立つ臣下になりたいから勉強もがんばるって言ってましたよ」

 ミーシャはスノードームをぎゅっと握った。

「陛下ならきっと、ノア皇子の気持ちをくみ取ってくれる。そう信じてます」
「ノアの気持ちはもちろん尊重するよ。だが、本来なら俺が、ノアの臣下になるべきだ」
 
 リアムは背もたれに身体を預け、ふうっと重い息をはいた。

「あの子は、兄……前皇帝に似て、争いを好まない。やさしすぎる。だから、ノアが王位についたとき、戦争が起きないように流氷の結界を作った。このまま魔力をそそぎ続ければ、俺が死んだあとも何十年、何百年と、害をなそうとするものを阻み続けるはず」

「流氷の結界は、陛下がいなくなっても発動しつづける……。いただいた、このスノードームのようにずっと、在り続けるのですね」

 ミーシャはスノードームを持ったまま立ちあがった。そして、彼の前に立つとほほえみかけた。
 
「陛下の生み出す氷と雪はとても繊細で美しく、そして、やさしいです」

 ミーシャは呆然とした顔で自分を見つめるリアムの手を取った。

「陛下、昨夜あまり寝られていないでしょう。もう今日は休みましょう。寝台へどうぞ」

 いつもより早めに部屋に戻ってきたのは、おそらく宰相のジーンの気づかい。今のミーシャにできることは彼を癒し、身体を休めることだ。

 手を引っ張るとリアムは「わかった」と言って、素直に従った。
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