炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「一体誰がこの者を送りこんだのでしょう。隣国の風の国カルディア? あ。フ、フルラ国ではありませんからね?」

 言いわけするとかえって怪しいと思いながらも弁明すると、リアムは苦笑いを浮かべた。

「フルラ国は俺の第二の故郷だよ。疑ったりはしない」

 リアムはミーシャの前で片膝をついた。胸に右手を置くと顔を上げた。
 蒼い瞳を向けられて、ミーシャは動けなくなった。

「あいさつが遅れました。初めまして、ミーシャ・ガーネット公爵令嬢。リアム・クロフォードです」

「陛下。おやめください。畏れ多いです!」

 一国の帝がただの娘に跪いて最大限の敬意を現わすなんてまずありえない。驚いたミーシャはあわてながら礼節を断ったが、リアムは姿勢を崩さなかった。

「あなたはわが師、クレアの血縁者。礼を慮るのは当然です」

「お会いしたかった」というリアムの言葉に胸が締め付けられ、痛んだ。

 彼の想いは知っているつもりだったが、いざ本人の口から聞くと、嬉しいというより戸惑うばかりだ。

「リアム陛下。お願いです、立って……あれ?」

 胸に当てている彼の手と右頬に霜が降りているのに気がついた。

「どうして、霜が発生しているんです?」

 空気中の水蒸気が氷に昇華する条件は、零度以下の冷やされた物体にくっついたときだ。生きている人の表面に霜は降りない。

「魔力の暴走はよくあること。大丈夫です」

 リアムは呟くと、瞼を重たそうに閉じた。吐く息が空気中でさらさらと凍っていく。呼吸は浅くて早い。よく見ると、さっきから反応も緩慢だ。

 ミーシャは「失礼します」と断ってからリアムの手に触れた。氷を直接触ったみたいに冷たい。彼の身体がすごい早さで冷たくなっていく。

「炎の鳥! おいで」

 傍のかがり火から炎の鳥をありったけ呼ぶ。
 低体温症は温かいお湯に浸かるのが一番いいが、沸かしている猶予はない。

「お願い。あなたたちの力を貸して」
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