炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
陛下、もう、帰られるのですか? せっかくいらしたんですもの。ごゆっくりなさってください。父も、もっと陛下にいて欲しいと思っているはずです」

「ナタリー! 陛下の前を塞ぐなんて不敬だぞ。陛下に向かって意見申しあげるな。引き留めるな!」

 兄のジーンは妹を押しのけた。ナタリーをきつく睨む。

「……ああ、つい。でも陛下はこのくらいで怒ったりはしないわ。そうでしょう、リアムさま」

 ナタリーは兄に怒られてもけろりとしていた。

「良くない! いつまでも子どものころの感覚では困る」
「わたくし、今年で十八になります。子供ではありませんわ」

 家長のジーンに向かって怯まずに言い返した。

「そんな調子だと嫁に行き遅れる!」
「あらひどいわ、お兄さま。久しぶりに帰ってきたと思ったら、妹をいじめるなんて」
「いじめていない!」
「ジーン、兄妹ケンカをするなら置いていく」

 リアムは言い合っている二人を残して先を急いだ。

「陛下。引き留めて申しわけございませんでした。ですが、少し根を詰めすぎでございます。時には息抜きも必要ですよ。疲れ切っていては有事のときに動けません」

 彼女の言葉に足を止め、振り返った。

「夫人に、手紙を書かせたのは令嬢か」

 彼女は一瞬目を見開いたが、なにも言わずただ、口角をあげた。

 アルベルト夫人はおだやかでおっとりした、かわいらしい淑女だ。彼女の旦那エルビィスは聡明で頼れる人。
ジーンとナタリーの気質はどちらかというとエルビィス譲りで、行動力があり、頭の回転が速い。

 ――夫人が手紙を送ってくるなんて珍しいと思ったが、ナタリーが母親に、青い瞳の男の情報と、サファイアの原石を見せたほうがいいと進言したのだろう。

「情報提供、感謝する」
「当然のことをしたまでです」
「……息抜きは、できるように努力する」
「リアムさま。息抜きは本来、努力するものじゃないですよ」

 ナタリーはふふっと笑うと、カーテシーをした。
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