炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「いつでも、息抜きにお越しくださいませ。お待ちしております」

 リアムは「善処する」とだけ答え、アルベルト邸をあとにした。


 *

 宮殿に戻ったのは昼過ぎだった。軽く食事を済ませ、ジーンと二人で黙々と事務処理に勤しむ。
 作業しながらも、リアムの胸の奥では怒りが渦巻いていた。ときどき冷気が漏れ出して、部屋の温度を下げた。その度にジーンは黙って服を着こんでいく。

 急ぎの案件をあらかた片がついたころ、イライジャを執務室に呼んだ。

「イライジャ、護衛中に呼び出してすまない。ミーシャは大丈夫か?」
「はい。私の直属の部下が今、ミーシャさまの傍にいます」

 リアムは頷くと、胸ポケットにしまっておいた布を取り出し、彼に差し出して見せた。

「呼び出した件だが、イライジャ。これがなにか、わかるか?」

 じっと見たあと、イライジャは口を開いた。

「サファイアの原石でしょうか」
「そのとおり。これはサファイアで、魔鉱石の未完品だ」
 
イライジャは目を見張った。

「魔鉱石、ですか? なぜこれを陛下が?」
「エルビィス先生の元に届いた。差出人は、オリバーの名前だったらしい」
 
 彼は深く息を吸った。微動だにせずじっと、サファイアの原石を見つめる。

「贈ったのは本当に、ご本人なのでしょうか?」
「わからない」
 
 リアムはふっと力なく笑うと、魔鉱石を握りしめた。もう片方の手をイライジャの肩に置くと、彼の目をまっすぐ見つめ、伝えた。

「この石の存在を知るのは我々だけだ。他の者には口外しないように」

 イライジャは複雑そうな顔を作った。
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