炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
 炎の鳥は一度両翼を広げた。そしてゆらりと原型を崩し、そのままミーシャの腕の中に溶け込んだ。肘から先が内側からほのかに朱く輝き出す。こうすることでひとときだけ火を操れる。内に留めていれば、長時間体温を高くしていられる。

 片手をリアムの背に、もう片方の手でリアムの胸に触れた。低温火傷を起こさないように注意しながら温める。

「陛下、なぜです? 寒い環境の耐性があるはずでは?」

 なにもないところから氷の剣の生成と、手から吹雪を発生させた。並の人間からすれば、腰を抜かすほど十分すごいことだが、幼少期のリアムの力はもっとすごかった。瞬時に建物一つ凍らせても本人はけろりとしていた。

「なぜ暴走したんですか?」

 氷の皇帝が、敵二人倒したくらいで魔力のコントロールができなくなるなんて信じられない。普通じゃないことが彼の身体に起こっている。

「このままでは内側から凍って、心の臓が止まってしまいます!」
「そうかもな……」

 リアムは目をゆっくり開けると、薄く笑った。

「きみは、魔力がほとんどないと聞いていたが、知識は、あるんだね」
「ガーネット家は魔女の家系ですよ。このくらいわかります。魔力は、使いすぎると身体に影響が出る。耐性と、魔力量は必ずしも比例しない」
「そうだ。力は使いすぎるとやがて、その身を滅ぼす」

 魔力は諸刃の剣。大きな力に人の身体は保たない。そのため魔力を持つ王族は短命で、世代交代が早い。リアムの父親は七年前、すぐにあとを継いだ兄クロム前皇帝も一昨年前、身罷られた。

「私のせいで、決着を急いで魔力を使ったんですね?」

 リアムはミーシャを庇い、敵を氷漬けにした。
 いてもたってもいられず加勢してしまったが、大人しくしていればこのような状態にならなかったと自分を責めた。

「……ありがとう。少し、楽になった」
「まだ、動かないでください」

 胸に当てているミーシャの手に、リアムは触れた。近い距離で目が合う。

「温かい。ガーネット公爵家はすごいな。炎のような高温でも耐えられる……」
「炎への耐性には自信があります。きっと、太陽に触れても平気ですよ。触れたことはありませんが」
pagetop