炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「そんな危険なところへ、陛下自ら行かなくても……」

「陽動のような気もするが、行ってみないとわからない。この目で確かめてくる。この国で一番強いのは俺だからね。戦争を防ぐか、最小限にするなら先に動いて、被害を抑えたほうがいい」 
「でも、そしたら陛下の身体が……」

「凍化病は酷くなるだろうね」

 ミーシャは顔をしかめた。つらそうに首を横に振る。本気で心配してくれているのが伝わってきて、リアムの胸は締め付けられた。だが、自分には使命がある。

「帝国民あっての王族、王族あっての帝国民だ。もう、民の犠牲はこりごりなんだ。今こそ、俺がどうにかしなければならない」

「私は魔女の末裔で、フルラ国の守護を司る一族です。フルラに危機が迫れば、まず、みんなを守るために動きます。……なので、陛下の気持ちはわかります。だけど……陛下の体調は万全ではありません。万が一のことがあってからでは、遅いです」

「万が一が起きないように結界を張っている。大丈夫。現状を把握するために見てくるだけだ」

 リアムはミーシャに向き直った。

「ミーシャ、俺の治療を一旦あきらめて国に帰るならそうしてくれてもいい。カルディア王国に向かう道中であなたを送り届ける」

「凍化病が酷くなるとわかっている人を置いて国へ? 無理です。帰るなんてできません」
「だったら、一緒にカルディアへ行くか?」

 ミーシャは目を見開いた。

「私も、一緒にカルディアへ、ですか? 他国の魔女の私が、軍の最前線へ、ついて行ってもいいのですか?」

「きみを全力で守ると約束した。だから戦の最前線でもミーシャのことは俺が必ず守る。心配はいらない。が、無理強いはしない」

 オリバーがなにを企んでいるのか不明の今、氷の宮殿に彼女を置いていくほうがリスクが高い。彼女を国に帰すか、一緒にいるほうが守れる。

「私も陛下を守ると約束しました。ついていく以外、選択肢はありません」

 望んでいた答えだったが、ミーシャ本人の口から言ってもらえて、内心、浮き立った。

「ありがとう。ただし令嬢は無鉄砲なことをする人だと知っている。俺の傍をはなれないこと。無理は絶対にしないのが条件だ。いい?」

「では、私も条件を出します。陛下も無理をしない。お互い監視できていいですね」

 ミーシャは朝陽のように眩しく、朗らかに笑った。

 ――どうしても願ってしまう。この笑顔をずっと見ていたいと。少しでも長く、傍で……。

「出発は数日以内。しばらく出兵の準備で忙しくなるが、警戒も怠らないように」
「わかりました。陛下、私にできることがあったらなんなりと言ってくださいね。……ひとまず、エルビィス先生の薬をすぐに調合しましょう」

「ああ、頼む」

 白狼がリアムのもとを離れ、白い大地を駆けていく。そのようすをミーシャと見送ってから、室内に戻った。


pagetop