炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「恋、ね。もし、これが恋という感情なら、早く消さないとな」

「……はい?」

 ジーンは人に見せられないくらい歪んだ顔になったが、リアムは無視した。

「恋は人を狂わせる。自分勝手で、周りが見えなくなる。よくない状態だ」
「それは、人によりけりだと思いますよ。その人のために、すごい力が出るときもあります。すばらしい感情です」

 胸に手を当て、熱弁するジーンに冷たい視線を送ってあげた。

「ミーシャのことは、この命尽きるまで守ると決めている。でもそこに、俺の感情はいらない」
「いらないって。陛下に愛されて、喜ばない人なんていないです」
「では俺が死んだあとは?」

 リアムはジーンの言葉をさえぎると続けた。

「残された者には長い哀しみが待っている。それに耐えられずに自ら命を絶ったのが、我が母だ」
 
 母は先々帝のルイス陛下を心から愛していた。二人の出会いは政略結婚だが、仲睦まじい姿をリアムは幼少期に何度か見かけた。

 ルイスの凍化を食い止めようと必死で、息子たちに気が回らないほどだった。先々帝が身罷ったときは憔悴しきって、見る間に痩せ細り、とても見ていらえなかった。

「大事な人を守れず、失う哀しみはとても理解できる。もう、味わいたくないし、誰かに同じ思いを味わわせたくもない」

「守れなかったのは過去の話です。これから守っていけばいいんです」

「俺のほうが先に死ぬのに、どうやって守る? 皇帝という立場で彼女を縛りつけるのは簡単だ。だが、そのあと悲しい想いをさせてしまう。違うか?」

 感情の発露(はつろ)で、室内に雪が舞う。

「師匠にもらった命だ。自らは断たない。だが、延命しようとも思わない。これまでずっと、人々の幸せを願ってきた。クレアの意思を引き継いだからこそだ。みんなが幸せなら、それで十分だ」

 ジーンは、「お言葉ですが」と前置きをすると、強い眼差しをリアムに向けた。

「みんなの中に、僕は含まれません」
「どうして? 遠慮せず含め」
「僕の幸せは、陛下が幸せになってはじめて得られるからです」

 リアムは目を見張った。
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