炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

叶えられない願い

「リアムさま、連日お邪魔してもうしわけございません」

 ナタリーはていねいにカーテシーをした。

「我が妹よ。おまえ、なんでここにいるんだ」
「……あら、お兄さま。いらしたんですね。見えませんでしたわ」
「いたから! 最初からずっと、陛下の横に!」
 
ふっと笑うと、ナタリーはリアムを見た。

「今朝方、父がうわごとを。お伝えしようと思いまして、馳せ参じました。陛下にだけ、お伝えしたく思います」

 兄のジーンは渋い顔をしているが、ノアに聞かれたくない内容かも知れないと目配せをする。

「ノア皇子、ぼくと遊んでください。書類整理でちょうど疲れていたんですよー」

 ジーンがノアを連れて立ち去ってから、リアムは口を開いた。

「それで、エルビィス先生の伝言とは?」
「わたくしに、陛下を支えなさいと」

 ナタリーの表情は硬く、真剣な顔をしている。彼女の話をちゃんと聞こうと、向き直った。

「リアムさま。わたくし、ずっと、ずっと前から、リアムさまをお慕いしておりました」
 
 彼女の手が伸びてくる。それを「触れるな」と、言葉で止めた。

「凍化が進んでいる。魔力がないものが触れると凍傷してしまう」

 ナタリーは怯えた目で、救いを求めるようにリアムを見つめた。

「陛下も凍化病を? いつからですか?」
「だいぶ前からだ」
「まったく、気づきませんでした」
「ジーンが、うまく隠してくれていた。今まで、黙っていてすまない」

 一度目を見開いたあと、彼女は弱々しく、首を横に振った。

「陛下の病は内緒にするのが当たり前です。最近、カルディア国も不穏な動きをしているみたいですし」
「さすが、アルベルト侯爵の令嬢だな」
「わたくし、これでも宰相の妹ですから」

 顔には笑みが浮かんでいるが、胸の前でぎゅっと握られたナタリーの手は、小さく震えていた。
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