炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

背中に伝わる体温

「令嬢は、じっとしているのが苦手なのか?」
「体調の悪い陛下を見て、じっとしていられる人なんているんですか?」

 言い返すと、リアムは目を見開いた。

「きみは、変わってる。一人で森をうろつき、刺客と遭遇しても怯まず体当たりで撃退しようとした。こんな令嬢、聞いたことも見たこともない」

 背中がかっと熱くなって汗が浮かんだ。リアムの言うとおりで、どれも公爵令嬢としての振る舞いではない。

 ――元師匠として心配が先に立ってしまった。リアムに会いたくなくて、病弱で引きこもりだからとこれまで断ってきたけど、嘘だとばれたわね……。

「私はただ、自分にできることをしているだけです」

 今さら取り繕ってもしかたないと、本心を伝えた。

「陛下の体調が回復するまで、お傍を離れません」

 彼の冷たい手を包み込むように握る。すると、リアムは小さく頷いた。

「きみの心づかいに感謝する。が、もう心配いらない。俺の連れが来たようだ」

 ミーシャは手を外し、振り向いた。護衛数名を引き連れて、グレシャー帝国宰相ジーン・アルベルトが血相を変えて駆け寄ってきた。

「陛下! これはどういうことですか?」
「問題ない」
「問題しか見当たりませんが!」

 素っ気ないリアムにジーンが詰め寄る。

「刺客を捕らえただけだ。兵はその男たちを連れていけ」

 リアムは指示を飛ばしながら立ちあがろうとしたが、足に力が入らないらしく、ぐっと声を漏らした。支えようと肩に触れる。

「陛下。今は無理したらだめです」

 顔にあった霜は溶けてなくなった。しかし、まだ身体は冷たい。再び温めようと背に手を当てる。

「ミーシャ。ひとまず、休める屋敷に陛下をお連れしましょう」
「エレ……お母さま?」
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