炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「……わかった。いつでも発てるようにミーシャは着替えと準備を。悪いが荷物は最低限で頼む」

 ミーシャは頷くと、さっそく行動に移した。

「ジーンのところへ行ってくる。俺が戻るまで、部屋から出ないように」
「はい」

 リアムは、宰相が寝泊まりしている部屋へと足早に向かった。


「ジーン、起きろ。仕事だ」

 リアムはノックもなしに部屋に入ると、枕を抱きしめ、気持ちよさそうに眠っているジーンを蹴り起こした。

「痛っ、へ? 陛下なんでここに?……まさか、夜這い?」
「するかバカ。カルディアが動いた」

 締まりのない顔をしていたジーンは宰相の顔になった。

「予定より速い、いえ、タイミングが良すぎますね」
「ああ。こっちが先に動く前に仕掛けてきた。敵にこちらの動きが漏れている。情報統制ができていないようだ」

「情報漏洩は、痛手。ときに致命傷を負う。ですが、我々には問題ない。ですよね。氷の英雄、氷の皇帝陛下」

 ジーンは不敵に笑った。

「茶化すな、凍りたいのか?」
「まさか、で。進軍はどの地点からですか?」

「予定通りだ。ここへ向かう最短ルート。敵軍が来るとしたら丸一日というところか。結界が進行を阻むから、もっと遅いだろう」
「他からの侵入でなければ、けっこうです。被害を最小限にできますから」

「そのために穴を作っておいたんだろ」
「ええ。広大な我が領土、国境の要所ごとに戦っていては、被害が大きいのはこちら側。だらだらと疲弊して兵がすり減る籠城戦など、お断りです。いちいち戦っていてはめんどうです」

 敵にわからないようにわざと攻略できそうな地点を作り、誘い込む。罠にはまったところへ一斉に攻撃を仕掛け、一網打尽にする。それがジーンの戦略の一つだった。

「イライジャは今、なにしている?」
「そういえば、どこでしょう? ミーシャさまの護衛はなさっていないですよね」

 リアムは、眉根を寄せた。

「イライジャを追う。まだ、間に合うかもしれない」
「え。追うって?」
「あいつが向かうとしたら、流氷の結界がある場所だ」
「でしたら南門へ。東門は最近警備を厳重にしたのですが、南は以前のままです」

 リアムは頷くとジーンの部屋を飛び出した。


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