炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「私を斬り捨てるおつもりでしたら、いかようにも。陛下の思うままに」
見つめる瞳に、イライジャの覚悟が見て取れた。
「斬り捨てる? なんでそんなことを俺がしなければならない」
リアムは少し呆れながら答えた。跪いたままの彼は理解が追いつかないらしく、目を泳がせている。
「私が、陛下を裏切ったと思って、殴られたのでは……」
「違う」
リアムは彼に近づき胸ぐらを掴むと、目を見てまっすぐに伝えた。
「イライジャ。よく聞け。俺がおまえを殴ったのは、ミーシャを傷つけたからだ」
長い沈黙のあと、イライジャは「……え?」と呟いた。
「ミーシャさま?」
傍で見守っていたジーンも、目と口をぽかんと開いている。リアムは二人の反応を無視して頷き、続けた。
「昨夜、ミーシャが薬草採りからなかなか帰ってこなくて、俺が迎えに行っただろ。おまえが去ったあと、侍女たちから聞いた。イライジャと話をしてからミーシャのようすがおかしいと。俺は、ミーシャに直接なにかあったのかと聞いたが、彼女は自分を責めるばかりだった。おまえのことはなにも言わなかった」
リアムは手に力を加え、彼を睨んだ。
「俺はおまえを信じて、ミーシャの護衛を任せている。次、ミーシャを悲しませることがあったら、こんなものではすまさない」
イライジャは、目を見開いたまま口を開いた。
「また、・・…・・次を、いただけるのですか?」
「おまえは俺の右腕で、大事な幼なじみだ。他に頼める者はいない」
イライジャはしばらくリアムを見つめたあと、ぐっと口を引き結び、こくりと頷いた。彼の胸元から手を外す。
リアムは雪の上に散らばる魔鉱石を見た。怒りがこみあげてきて思わず踏みつけた。心を静めてからイライジャを見る。
「ジーンの父親に、サファイア原石を送ったのがオリバーだとおまえに伝えたとき、知らない振りをしたな」
イライジャはゆっくりと、「はい」と答えた。
リアムは、まだ座ったままのイライジャと視線を合わせるために、雪の上に片膝をついた。
「おまえ、俺のためにオリバーと接触したんだろ。近づいて懐に入り、目的を探るために」
イライジャは目を見張った。