炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「フルラの大地を埋め尽くした氷はすぐに溶けたのに、一人だけ溶けずに凍ったままの俺を《《ある人》》が、氷の国へ運んでくれたんだ。八年眠った影響か、目覚めてからしばらくは動けなかった」
「ある人とは誰だ」
「俺のかわいい《《妹》》だよ」
リアムはつらそうに顔を歪ませた。誰のことだろうと考えていると、分厚い氷の壁の向こうでオリバーが立ちあがったのがわかった。
床に手を伸ばし、何かを拾っている。
「魔女のお嬢さん、俺に嘘をついていたね。どうやらクレア魔鉱石ではないようだが、魔鉱石、持っていたじゃないか」
ミーシャは、はっとなって自分の手首に触れた。
「……ない。なんで? いつのまに?」
「ブレスレットはさっき、お嬢さんが逃げ回っているときに落としたよ。なるほど、未完成品だったが、魔女が肌身離さず持つことで少しずつ魔鉱石になったようだな。……これは、ありがたくもらっておく」
オリバーが、ブレスレットを持ったままゆっくりと離れて行く。
「待て!」
リアムは自分で作った氷の壁を強く叩いた。こちらに背を向けていたオリバーは振りかえった。
「賢い我が甥リアム。今度こそ選択を誤るな。誰を生かし、誰を殺すのか。間違えるなよ」
オリバーはバルコニーのドアを開け、部屋から出て行った。
リアムはすぐに氷の壁を溶かしはじめた。
「オリバー大公殿下を追うつもりですか?」
「ああ。追う」
「今は、カルディアに備えなければ」
「わかってる。だが、きみのブレスレットも奪われた。魔鉱石になっているんだろう?」
「私の魔鉱石は、氷の魔力を使うオリバー大公殿下には扱いきれません。だから……、」
リアムはもう一度、氷の壁を強く殴った。
「あいつを許せない……! 師匠を死に追いやり、今もなお貶める男を放っておけない!」
氷を解かそうと、再び険しい顔で前を向くリアムの碧い瞳は、憎しみと哀しみに染まっていた。