炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「陛下。馬の準備ができました」
「イライジャ。ありがとう」
リアムは馬に近づき、手綱を握ると振り返った。ミーシャに向かって手を差しだした。
「公爵令嬢、おいで」
「は?」と声を裏返したのはジーンだ。
「陛下、なに言っているんですか!」
「屋敷まで彼女に案内してもらおうと思って」
「いやいやいやいや。いきなり一緒に乗馬なんて、なれなれしい。ご令嬢に向かって失礼ですよ!」
「ジーン、おまえに言ってない。公爵令嬢、頼めるか?」
ミーシャは目を瞬いた。ちらりと差しだされたままの手を見る。顔と違い、まだ霜が残っている。
「わかりました」と返事をしたあと、馬に近寄った。
「手を貸そう」
「大丈夫です」
リアムの愛馬らしく、立派で大人しい。目を見てあいさつをすませるとミーシャは鐙に足をかけた。
スカート姿は乗馬に適していないが、今はそんなこと気にしている場合ではない。めくれないように慎重に、馬の背に乗る。そのあと、リアムはミーシャが乗っているのにもかかわらず軽やかに飛び乗った。彼が手綱を握り、腕の中にすっぽり収まった。
――距離が近い。
後ろを意識しないように前を向く。
「乗馬の経験があるのか?」
「あります」
クレアのときはよく乗っていた。ミーシャとして生まれ変わってからは、なるべく目立たないようにしていたため実際のところは十数年ぶりだ。鞍の前橋部分をぎゅっと持つ。
「陛下、行ってください。その代わり無理はだめですからね! おつらいなら私が馬を操ります」
背中に伝わる体温はまだ冷たい。こうして動いているのが不思議なくらいだ。
――早く暖かい場所で休ませてあげたい。
「今は緊急事態です。早急に屋敷に戻りましょう。お身体を暖炉で温めなければ」
「……恩に着る」
馬はゆっくりと歩き出した。
*・*・*・
「魔女と接触したか」
男は、一人呟いた。
クレアの慰霊碑から少し離れた木々の中に身を隠し、リアムたち一行を見つめる。
――まあいい。次の手を打つだけだ。
月明かりから避けるように、影から影へ移動しながら男はその場を離れた。
「イライジャ。ありがとう」
リアムは馬に近づき、手綱を握ると振り返った。ミーシャに向かって手を差しだした。
「公爵令嬢、おいで」
「は?」と声を裏返したのはジーンだ。
「陛下、なに言っているんですか!」
「屋敷まで彼女に案内してもらおうと思って」
「いやいやいやいや。いきなり一緒に乗馬なんて、なれなれしい。ご令嬢に向かって失礼ですよ!」
「ジーン、おまえに言ってない。公爵令嬢、頼めるか?」
ミーシャは目を瞬いた。ちらりと差しだされたままの手を見る。顔と違い、まだ霜が残っている。
「わかりました」と返事をしたあと、馬に近寄った。
「手を貸そう」
「大丈夫です」
リアムの愛馬らしく、立派で大人しい。目を見てあいさつをすませるとミーシャは鐙に足をかけた。
スカート姿は乗馬に適していないが、今はそんなこと気にしている場合ではない。めくれないように慎重に、馬の背に乗る。そのあと、リアムはミーシャが乗っているのにもかかわらず軽やかに飛び乗った。彼が手綱を握り、腕の中にすっぽり収まった。
――距離が近い。
後ろを意識しないように前を向く。
「乗馬の経験があるのか?」
「あります」
クレアのときはよく乗っていた。ミーシャとして生まれ変わってからは、なるべく目立たないようにしていたため実際のところは十数年ぶりだ。鞍の前橋部分をぎゅっと持つ。
「陛下、行ってください。その代わり無理はだめですからね! おつらいなら私が馬を操ります」
背中に伝わる体温はまだ冷たい。こうして動いているのが不思議なくらいだ。
――早く暖かい場所で休ませてあげたい。
「今は緊急事態です。早急に屋敷に戻りましょう。お身体を暖炉で温めなければ」
「……恩に着る」
馬はゆっくりと歩き出した。
*・*・*・
「魔女と接触したか」
男は、一人呟いた。
クレアの慰霊碑から少し離れた木々の中に身を隠し、リアムたち一行を見つめる。
――まあいい。次の手を打つだけだ。
月明かりから避けるように、影から影へ移動しながら男はその場を離れた。