炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
*
ビアンカの後宮に馬車は停まると、オリバーは起こされ、鉛のように重い足を動かして外へ出た。
「オリバーさま。魔鉱石は手に入りましたか?」
「クレア魔鉱石は手に入らなかった。が、代わりに未完成の魔鉱石なら手に入れた」
オリバーは懐から、ミーシャのブレスレットを取り出した。
「彼女が身につけていた物ですね。魔鉱石だったなんて……」
「この程度では、氷を溶かすのは無理だが、わずかながら私の凍化を送らせることはできそうだ」
「早く、あいつらから魔鉱石を奪いましょう」
険しい顔をするビアンカを見て、オリバーは苦笑いを浮かべた。
「ずいぶん、空が明るくなったな」
「ええ。間もなく陽が昇るかと」
「太陽の復活だな」
朝陽が、金色の光の筋を空に伸ばす。オリバーは目を細めながらしばらく明けていく空を眺めた。
「……ビアンカ。何事もなければ、今夜にはカルディア兵がここへ来る」
「はい。存じております」
オリバーは彼女を見て言った。
「おまえの役目はここまでだ。国へ帰りなさい」
「……え?」
ビアンカは目を見開き、信じられないと言いたげな顔で、首を横に振った。
「……なぜですか?」
「それがきみのためだからに決まっているだろう」
ビアンカは口をわななかせた。オリバーの腕を強く掴み、すがるように見あげた。
「オリバーさまと私で、この国を乗っ取るのではないんですか?」
ヒステリーな声で彼女は続けた。
「あなたが皇帝となったあかつきには、私を正妃にしてくださると、そう約束してくれましたよね? 将来はノアが次期皇帝でもかまいません。私は国に帰らない。いえ、帰れない! リアムを廃し、オリバーさまと共に新しい国をここで築き……」
「幸せな奴だな、ビアンカ。そんな夢物語を、今も信じているのか?」
オリバーはこらえきれず、くくっと声に出して笑った。そして、流氷よりも冷めたい眼差しを、ビアンカに向けた。