炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
雪をまとった風が、二人のあいだを抜ける。ビアンカは明らかに動揺し、目を泳がせ、息を乱した。

「……私は、オリバーさまを慕っています。十六のころからずっと、ずっと、好きでした!」
「知っているよ。ありがとう」

 オリバーは彼女の告白を聞いてもなにも、心に響かなかった。ただ、哀れな女を見つめる。

「オリバーさまが望むからと、私は、凍化病で先がないクロムさまの子を、クロフォード家の世継ぎを産んだんですよ? 好きでもない男の子どもを私に作らせておいて、役目は終わりだ。帰れと言うのですか?」

「ああ、そうだったね。俺がきみに、クロムとの間に子を成せと言ったんだった」

 オリバーはビアンカに手を伸ばすと、彼女を抱きしめた。

「ありがとう。かわいい妹よ。すごく、……滑稽だ。あの言葉を、本気で鵜呑みにするなんて思わなかったが、おかげで楽しいときを過ごせたよ」

 ビアンカが腕の中で、「え?」と声をもらしたが、オリバーは気にせずそのまま魔力を使い、彼女を足元から凍らせていく。

「オリバーさま……?」

 ビアンカの顔が絶望に染まる。それを見てもオリバーの胸は痛まなかった。抵抗しようとしたため強く抱きしめ、そっと、囁く。

「凍った俺を見つけ、この宮殿に囲って欲しいと俺は言ったか? 冷凍睡眠から俺を目覚めさせてくれと、俺はおまえに頼んだか?」

 青白い顔でビアンカが震えだす。金魚が餌をねだるように口をぱくぱくとさせている。

「わが甥、クロムはおまえにやさしかっただろう? そのまま俺のことなど忘れ、幸せになる道もあったというのに。ビアンカ、おまえは過去に囚われた、愚かな女だ」

 言いながら、自分も過去に囚われた愚かな男だなと思った。

 足が凍り、抵抗できなくなると、ビアンカを抱くのをやめた。

「そこで固まっていろ。すべてが無事終わったら出してやる。……それまで、生きていられたらだが」

 目の光を失ったビアンカから顔を背けようとしたときだった。背中に雪の塊を思いっきりぶつけられた。

「母さまを、いじめるな!」
 
 振り返るとそこに、碧い瞳をした少年、ノアがいた。


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