炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「ノア、またな。早く大きくなれ」
 
 オリバーは親子に背を向けた。ビアンカの後宮にある大きな『氷の泉』へと向かう。ノアはもう、攻撃してこなかった。


 凍った湖面にオリバーは立つと、まず泉に積もった雪をすべて排除した。そして、自分で作ったサファイア原石の魔鉱石を懐から取り出し右手に持った。
 左手にはさっきミーシャから奪ったブレスレットを握る。

「魔鉱石よ。私に力を与えてくれ」

 オリバーは、サファイア原石を持ったまま大きな氷柱(つらら)を作り、勢いよく泉に突き刺した。青い閃光が自分を中心に放射線状に延びていく。
 
 泉の表面全体に雪の結晶樹枝六花(じゅしろっか)が浮かんだ。いくつものヒビが入り、ぱきぱきと割れる音が鳴りだし、やがて、泉を覆っていた厚い氷が崩れはじめた。

 オリバーはさらに氷柱を深く泉に突き刺し、魔力を注いだ。力を使うほどに身体の内側が凍てついていく。左手にある魔鉱石をきつく握った。

 ――やはり、無理か……。
 奪って持ってきた魔鉱石は気休め程度。このままでは泉を溶かしきる前に、身体が凍ってしまう。

 前回は、死ぬ前にリアムの力で凍ったことで冷凍睡眠できたが、今回はその前に凍化病で死にそうだった。
 
 ――今回もダメか。そう思ったときだった。

「泉の氷を溶かしてどうするつもりなの?」

 氷柱を突き刺した態勢のまま顔を横に向けると、ノアが、透き通った碧い瞳でオリバーを見ていた。
 足場が悪いのに、その後ろには青い唇でがたがたと震えるビアンカもいた。

「自分で氷を溶かして、母親を助けたか……」

 ふっと笑いかけると、ノアは母親を庇うように腕を広げだ。

「母さまを助けるのはあたりまえだろ」
「どうしてあたりまえなんだ?」

 小さな皇子は一度目を泳がせてから口を開いた。
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