炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「頬に煤がついている」
「え……?」
さっき、かがり火に近づいた。そのときに煤がついたらしい。あわてて頬を手でこすった。
「違う。そっちじゃない」
リアムの手がミーシャの右頬に触れた。
「煤をつけた令嬢も初めて見た」
呆れながらも温かみのある眼差しだった。まだ冷たいリアムの指先が頬に何度も触れる。煤を拭き取ってくれているあいだミーシャは動けなかった。
「取れたよ」
「ありがとうございます」
「令嬢はさっき、『太陽に触れても平気』と言った。前に、師匠から聞いたことがある」
ふいを突かれ、思わず息を吞んだ。
クレアだった大昔に言ったかもしれない。リアムは今でも覚えているらしく、焦った。なるべく表情を変えずに小首をかしげる。
「私、そんなこと言いました?」
「かすかな魔力からは、クレア師匠と同じものを感じる」
リアムはミーシャの長い髪を一束、掬うように持ちあげた。
「師匠の髪は真っ赤な月を闇で包んだような色をしていた。名前のとおりガーネット色。令嬢の髪の色はクレア師匠よりも色素が薄い朱鷺色だが、朝焼けのような、透きとおる紫の瞳の色はまったく一緒だ」
ミーシャはまっすぐ碧い瞳を向けるリアムから視線を逸らした。
――よく見ているし、よく気づく。……だから、会いたくなかった。
「クレアは、私の母の従姉妹です。親戚ですから、似た部分もあると思います」
平静を装って答えたが、これ以上共通点を見つけられたら正体がばれるかもしれない。この場をどう切り抜けようかと頭がいっぱいだった。
「見れば見るほど、よく似ている。まるでクレア師匠が蘇っ……」
「違います! 私は、ミーシャ・ガーネット。十六歳です! 大魔女クレアではありません」
「え……?」
さっき、かがり火に近づいた。そのときに煤がついたらしい。あわてて頬を手でこすった。
「違う。そっちじゃない」
リアムの手がミーシャの右頬に触れた。
「煤をつけた令嬢も初めて見た」
呆れながらも温かみのある眼差しだった。まだ冷たいリアムの指先が頬に何度も触れる。煤を拭き取ってくれているあいだミーシャは動けなかった。
「取れたよ」
「ありがとうございます」
「令嬢はさっき、『太陽に触れても平気』と言った。前に、師匠から聞いたことがある」
ふいを突かれ、思わず息を吞んだ。
クレアだった大昔に言ったかもしれない。リアムは今でも覚えているらしく、焦った。なるべく表情を変えずに小首をかしげる。
「私、そんなこと言いました?」
「かすかな魔力からは、クレア師匠と同じものを感じる」
リアムはミーシャの長い髪を一束、掬うように持ちあげた。
「師匠の髪は真っ赤な月を闇で包んだような色をしていた。名前のとおりガーネット色。令嬢の髪の色はクレア師匠よりも色素が薄い朱鷺色だが、朝焼けのような、透きとおる紫の瞳の色はまったく一緒だ」
ミーシャはまっすぐ碧い瞳を向けるリアムから視線を逸らした。
――よく見ているし、よく気づく。……だから、会いたくなかった。
「クレアは、私の母の従姉妹です。親戚ですから、似た部分もあると思います」
平静を装って答えたが、これ以上共通点を見つけられたら正体がばれるかもしれない。この場をどう切り抜けようかと頭がいっぱいだった。
「見れば見るほど、よく似ている。まるでクレア師匠が蘇っ……」
「違います! 私は、ミーシャ・ガーネット。十六歳です! 大魔女クレアではありません」