炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「……あの子が、教えてくれました。私にとってなにが一番大切なのか。……やっと、過去を断ち切りノアと未来へ、前へ進めそうです」

 リアムは頷くと、ジーンとイライジャに「皇妃を頼む」と命令した。

「御意のままに」
「陛下、お気をつけて」

 二人はリアムに敬意の礼をすると、皇妃と共に去って行った。

「俺たちも行こう」
「待って、リアム。カルディア兵は今、どこにいるんですか?」

 ミーシャは見回した。リアムが操作しているのか、天候が回復しつつある。視界が開けてきたが、自分たち以外誰もいない。

「……きみには俺がいるのに、不安?」

 リアムが少し戸惑いながら、ミーシャの顔を覗きこむ。

「そうじゃなくて、ちゃんと私も把握しておきたいんです。ビアンカ皇妃のように」

 皇妃として、後宮に隠れ守られていることもできた。それなのに彼女はリアムの命に従い、危険な最前線に赴いた。国を思う立派な人だと思ったが、

「正直、ビアンカが俺の招集に答えるとは思っていなかった。だから、虚を突いて俺の命を狙っているのかもな」

 リアムからまさかの答えが返ってきた。ミーシャと違う捉え方をしていて驚いた。

「カルディア兵の本隊は皇妃たちが向かった先だ。そこは崖で、下が広大な盆地になっている。流氷の結界を避けて帝都へ上がろうとすると、そこへ迷いこむ。袋小路だがな。視界は吹雪で真っ白だから迷ったことにも気づかない。崖は絶壁で、下から登ってくるのはほぼ無理。集まったところを一斉に搦め捕る(からめとる)作戦だ」

「ではさっき、イライジャさまが倒したカルディア兵は?」
「斥候と、別働隊だろう。戦争になれていないようすだな。もしまた鉢合わせしても、ミーシャのことは俺が守るよ」

 ミーシャはもう一つ質問した。

「流氷の結界が気になると、リアムはさっき言っていましたよね」

 リアムは頷いた。

「流氷の結界に侵入者が入ると、触れた部分が強く発光して相手を凍らせる。ここから数キロ先の下流付近が明け方からずっと、発光したままだ」
「つまり、ずっと誰かが凍り続けている? 結界に入った者は、氷漬けのままなの?」
「凍った者をすぐに結界の川から引きずり出せば、氷は溶けて死にはしない。しかしそのまま凍った仲間を置いて進行、または踏み台にして前に進むと、凍る現象は伝播していく」

 リアムの説明を聞いて、ミーシャは眉根をよせた。
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