炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「私は特別なおまえを助けたかった。クロムも死なせたくなかった。兄ルイスも民のために死ぬ必要などなかったはずだ」
「助ける? 俺を殺そうとし、師匠を死に追いやったのはおまえだ!」

 マグマのように熱く暗い感情がふつふつと湧き上がる。怒りにまかせて、剣の柄を強く握っていた。

「あれはおまえが魔女に傾倒し、周りが見えなくなったのが悪い」

 淡々とした口調で言うオリバーを、リアムは睨んだ。

「悪い魔女もいい魔女もいる。自分で見て知って、判断しろと言ったのはあんただ」
「その判断が間違っていたと言っている。誇り高き我がクロフォード家の者が、魔女の犬になりさがった。だからおまえの処分を決めただけだ」
 
 頭の中でなにかが弾け、切れる音がした。
 次の瞬間、リアムは魔力を最大に解放していた。先が鋭い氷柱が無数、オリバーに襲いかかる。
 彼はノアを素早く抱きかかえると、後方に飛び退き、氷柱をすべて避けきった。

「おい。ノアに当たったらどうする。それにおまえも凍化が進む」
「うるさい。本当は心配などしていないんだろ。やさしいふりはもういい、やめろ。反吐が出る!」

眼の前の男を八つ裂きにしたい。だが、ノアにそんなものは見せられない。代わりに声を張った。

「王家が短命なのは、民のせいではない。力に自惚れ、他国を無下にし、脅かし、侵略し続けたからだ。政略結婚を繰りかえし、支配した。その揺り返しならば、受け入れる!」
 
「先代たちのように早死にを選ぶか、リアムよ」

オリバーは、哀れむ声で言った。

「大事な人に先立たれる哀しみなら知っている」

冷たくなった父の亡骸にすがりつき、泣き叫ぶ母の声を、リアムは今でもはっきりと覚えている。

「だが、それらすべてを受け入れたうえで俺は生きる。大切な人のためにも、死なない。最後まで足掻くと決めた!」

 自分がいなくなれば悲しむ人たちがいる。残される者のつらさや悲しみはよく知っているのに、それを大切な人たちにさせるところだった。

幸せになる未来をあきらめるのは簡単だ。だが、追うことこそが、大切な人たちを幸せにする。リアムはミーシャを愛したことでようやく大事なことに気がついた。
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