炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

「そうか。……おまえは、生きたいんだな。……よかった」

 小馬鹿にして否定すると思っていたが、予想と反してオリバーは眉尻を下げると、嬉しそうに笑った。

「よかった? 散々、俺を殺そうとしておいて」

 オリバーは「そうだな」と言ったあと、リアムを鋭い目で見た。

「リアム。魔女は殺せ」

 叔父の碧い瞳には、仄暗い怒りの炎が灯っていた。

「断る。俺があんたの指示に従うわけがないだろう」
「魔女に、惚れているからか。我々は氷の王族だ。相反する炎の魔女となんか、うまくいくわけがないだろう」
「おまえには関係ない」
「関係あるさ。炎の魔女はいずれ、この国を滅ぼす。そういう宿命だ。悪いことは言わない。この国を守りたければ、あの女はあきらめろ」

 オリバーは自分の手を見て、呟いた。

「私は、守れなかった。だからこそリアムは氷の精霊獣のように、これまでとおり気高く、孤高の王となれ」
「守れなかったって、なにを?」
「……殺せないなら、王位を俺に譲れ。私がやる」

 ――ミーシャが国を滅ぼす? ミーシャをあきらめて、王位を譲れ……?

「あんたは、クレアだけじゃなく、ミーシャも殺すと言うのか?」

 ――ふたたび、大切な人を奪うというのか……

「…………ふ、ざけるな」

 煽られている。ミーシャが国を滅ぼす意図がない。根拠のない()れ言だと頭ではわかっている。それでも内側から怒りの碧い焔が飛び火して、大火にとなってリアムを突き動かす。

「リアムよ、流氷の結界も解け。そして俺の右手となっ……、」

 もうがまんならなかった。
 リアムは一足飛びにオリバーと距離を縮めると、体重を乗せて氷の剣を振り抜いた。
 オリバーは顔に余裕を残し、リアムの剣をぎりぎりで交わしながらどんどん後ろへ下がって行く。

「ふ。怒りで動きが単純で雑だ。洗練さを欠いている」
「……だまれ。……黙れ、黙れッ!」
「陛下。待って!」
「ノアはそこから動くな!」

 リアムはノアに向かって手をかざすと大きな氷の箱を作り、彼を中に閉じこめた。
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