炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
炎の鳥と炎の魔女
*オリバー・二十年前*
『ルシア。フルラ国との戦いが終われば、延期になっていた式を挙げよう』
片膝をついたオリバーは、ルシアの手を取り、彼女を見つめながらダイアモンドの指輪を贈った。
カルディア王国に留学経験があるオリバーと、カルディア王国の姫ルシアとは昔からの知り合いだった。一緒になれるのならば、政略結婚でもかまわなかった。
その先に、幸せになる未来が待っていると信じていたから。
彼女の薬指にダイアモンドが輝く指輪を嵌めてあげると、ルシアは嬉しそうに、ほほえんだ。
しかし、オリバーが幸せそうな彼女の笑顔を見たのは、それが最後となった。
*リアム*
「ミーシャを助ける? どういうことだ」
「順を追って説明する」
リアムが急かすように聞いても、オリバーはもったいぶるように間を置いてから口を開いた。
「二十年前。私はフルラ国との戦争の最前線にいた。フルラの兵士と魔女を自国に踏み入れさせない。それが私の任務だったが、フルラ国の魔女は、炎の鳥で容易に突破し、グレシャー帝国を次々と焼いていったのは、当時幼かったリアムでも知っているよな?」
「……ああ、もちろん覚えている」
当時六歳のリアムは兄クロムと一緒に氷の宮殿の最奥に身を隠していた。
そっと、窓の外を見あげると、いつもは白い空が炎のせいで赤色に染まっていた。グレシャー帝国民は自由に飛び回る鳥の形をした炎を畏れ逃げ回っていたと、リアムはあとから知った。
「炎の鳥が氷の宮殿や、街を火の海に沈めた」
オリバーは、リアムの言葉に頷いた。
「おまえの父、ルイス皇帝陛下は特に延焼が激しかったこの場所に雪を降らせた。氷が溶けて、洪水が起こるのを防ぐために地下通路全体に氷を張ったんだ。民のためにしたことだが、その時、地下にルシアがいたのを知らなかったらしい」
リアムは直接見ていないが、燃える氷の宮殿は大混乱だったと伝え聞いている。
昔の氷の宮殿の地下は、地上の回廊のようにそれぞれの施設に繋がっていたため地下通路として機能していた。今は氷で塞いでいるが、当時、炎に追われ、地下に逃げこんだ者もいた。