炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*


 しばらく川をくだると、対岸に倒れている人の姿を見つけた。いつもはノアの傍にいる小さな白狼もいる。銀色の髪。オリバーだ。上半身は氷の上だが、下半身が大きな氷の塊の中だった。うつ伏せで動かない。意識があるのかここからではわからない。

 リアムは足を速めた。ミーシャを置き去りにし、一度流氷の中に入ると、そのままオリバーに近寄っていった。魔力が回復したらしく、その手には氷の剣があった。

 離れていても伝わる。彼から、怒りの冷気を感じた。

「リアム……!」

 とめなければと思った。ミーシャも彼の背を追って流氷の中に入る。水は刺すように冷たかった。オリバーに刺された背中が引きつるように痛い。しかし今は痛みにかまっている暇はない。必死に前へと進んだ。

 リアムはオリバーの肩を掴むと仰向けにひっくり返した。そして、両手で剣を握り、剣先を下に向けると、そのまま勢いよく振り下ろした。

「殺しては、だめっ!」

 夜の川に氷が割れる音と、ミーシャの声が響きわたる。
 ミーシャは川を渡りきり、息を切らせながら二人の元に近づいた。

 リアムの剣は、オリバーの身体ではなく、身動きできないでいる原因の大きな氷の塊に刺さっていた。

「ミーシャ、すまない。炎の力を借りていいか?」

 あんなに殺意を抱き、憎んでいた叔父をリアムが助けようとしている。想いが届き、胸が震えた。涙が溢れて視界を歪める。手の甲で拭うと頷き、彼の剣が刺さっている場所に炎を放った。

「……私を、火炙りにするのか……」

 オリバーは(うめ)くように呟いた。やっぱり生きていた。意識があるとわかり、ミーシャはほっとした。

「ここから出したあとで充分に炙ってやるよ」
 
溶かしたところに再度、剣を突き刺す。パキンと高い音が響き、氷は割れた。二人でオリバーの身体を引っ張り出す。
 彼は憔悴したようすで、仰向けのまま空を見つけ、動かなかった。

「あんたには、聞きたいことがある。先に救助を待っている民を、帝都を救ってくるから、ここで待っていろ」

 オリバーはリアムの言葉を聞いて、ふっと笑った。
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