炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「なにが言いたい?」
「もっと、自分を大事にしてください」

 再会してすぐに思った。リアムは自分のことは顧みていない、度が過ぎていると。
 身を案じるものに耳を傾けず単独で敵を捕らえた。魔力を使えば症状が悪化するとわかっているのに、身体を張った無茶ばかりしている。

「無理なさらず、生きて、陛下も幸せになってください」

 切実に伝えたが、リアムは冷ややかに笑った。

「幸せ? そんなもの、俺には一生訪れない」

 彼は自分の胸に手を当てると、真剣な面持ちで言った。

「師匠の命と引き換えに生かされた命だ。師匠が自分にしてくれたように、今度は俺が人々を守る。それが、弟子として、この国の王としての役目だ」

 鋭い刃で貫かれたみたいに、胸に強い痛みが走った。

 世間はリアムのことを悪魔女を止めた英雄、最強の氷の皇帝と賞賛している。
 だからこそミーシャは、大人になった愛弟子は幸せになっていると思っていた。実際の彼は、吹雪の中をただじっと耐える狼のような目をしている。

「陛下、それは違います。陛下だって、幸せになるべきです……」
「この世で一番大事な人を俺は守れなかった。幸せになる資格なんてない」
「そんな悲しいこと言わないで!」

 炎に包まれる中、クレアは命を賭けて小さなリアムを守った。彼の幸せを願って消えた。あのとき描いた未来は、こんな形ではない。

 クレアだったころの感情がこみ上げてきて、視界が涙で歪んだ。こぼれ落ちる前にミーシャは彼に背を向けた。涙を拭い、手の中にある手紙を見つめる。

「なんで令嬢が、俺のために泣く?」
「あなたは、クレアの分も幸せになるべきだからです」

 振り向いて、まっすぐ彼の目を見る。
 両国に思惑があることも、恋愛感情の伴わない結婚だということも、最初から理解している。
 ただ一つ、リアムが自分をないがしろにしていることだけが悲しかった。

 手紙を、ぎゅっと握る。
 意を決めると机の前に移動した。羽根ペンを持つと筆を走らせる。リアムに再び近づき、手紙を差しだした。

「陛下。婚姻の申し込み、誠にありがとうございます。謹んでお受けいたします」

 ミーシャのサインが記された手紙を見て、リアムは目を見開いた。
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