炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
あの時は洪水がいつ起こるか、どれほどの規模かわからない状態だった。
 一人一人説得するよりも、炎の鳥と魔女を見せ、恐怖を煽って避難を誘導するほうが速いと思い提案した。自分はどう思われようとかまわなかったからだ。

「洪水に備えての避難については私も優先すべきことだと思い、賛成でした。ですが、自分は陛下から『ミーシャさまを守れ』と仰せつかっておりました。悪い魔女を言いふらした先……未来は、あなたを守るにはならないと判断しました」

 驚いたミーシャとリアムはお互いの顔を見合った。

「俺の命で、ミーシャの名誉を守ったということか?」

 リアムの問いに、イライジャは頷いた。

「陛下のためもありましたが、ミーシャさまのためでもあります。ずっとそばで護衛しておりましたからね。あなたが悪い魔女じゃないことは良く存じております。明確な嘘をつくのが心苦しくて、無理でした。それと……もう、どんな理由があっても、陛下を裏切るようなことはしたくなかった」
 
 オリバーを信頼させるために、何度もリアムや帝国を裏切った。事情はリアムもちゃんとわかってくれている。それでも、イライジャは後悔しているようだった。
 
 リアムはイライジャの肩に触れた。

「おまえは今日まで、休みなく国中を走り回り、守ってくれた。ここへ帰ってきてすぐ、ミーシャにあやまリに来てくれた。もう、じゅうぶんだ。感謝する」

「避難誘導なんて大変なことをお願いしたのに動いてくださり、本当にありがとうございました。……私はこれからも陛下の傍にいます。彼を支えるから、イライジャさまも支えてくださいね」

 リアムの言葉のあとに、ミーシャも続けてお礼を伝えると、リアム以上に表情が乏しい彼が、珍しくふわりと笑った。

「陛下もミーシャさまも自己犠牲が過ぎますので傍にいます。できれば、ご自分から先んじて無理や無茶するようなことは今後、自重していただけると助かります」
「……わかった。善処する」
「私も、気をつけます……」

 一拍置いて、同じタイミングで三人で笑った。

「……そろそろ、あの人に会おうか。心の準備はいいか、ミーシャ」
「大丈夫よ。リアム」

 視線を分厚い氷で閉ざされたドアへと向ける。リアムが近づくと、護衛兵の二人は、ドアをゆっくりと開け広げた。
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