炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「仮にもかわいい甥の奥方だ。形だけでも謝っておいたほうが良いと思ったんだが、不要か」
「はい。不要ですね」
「ミーシャ、むやみに煽るな」

 リアムがオリバーとミーシャのあいだに割って入る。そのようすを見てミーシャはほほえましく思い、眉尻をさげた。

「リアムが叔父さんを庇ってる」
「二人がもめそうだったら仲裁しろとジーンに言われている」
「さすが宰相殿。ですが、もめるつもりはないわ」

 ――言いたいことは言わせてもらう。ただそれだけ。

「いくら戦争だったとはいえ、これまで魔女はたくさんの人を殺し、怖がらせ、悲しませてきました。オリバー大公殿下にしてしまったように、誰かの愛する人を奪った。恨まれてあたりまえだと思っています。死んであげることで、罪滅ぼしをする方法もあった。けれど……幾万人の命に対し、この命一つでは償いきれません。だから、私は死なない。生き抜こうと思います。今、生きている人が一人でも笑えるように、幸せにしたいと思っています」

 ――死んで終わりでは、なにも変わらない。魔女の印象は悪いままで、恐れからまたいさかいが生じ、負の連鎖が続くだけ。

 ミーシャはリアムの手を取り、そしてオリバーを見た。

「リアムと、自分の幸せを掴むって約束したんです。そして、人々が楽しく、暮らしやすい国にしたいと思っています。だからあなたも、幸せを諦めないでください」

「……この私に、幸せになれと?」

 オリバーは目を見開いた。

「そうです。憎しみや、恨みを晴らすのではなく、共に人々を導き、支える道を歩んでいただけませんか?」

 ミーシャだって、言葉一つでオリバーの無念が晴れるとは思っていない。それでも、まずは伝えることからはじめるべきだ。

「このままではリアムが苦しいままです。あなたのかわいい甥を救うためにも力を貸してください」
「かわいいは……やめろ」

 口を挟まず聞いてくれていたリアムが、そこだけは手を引いてとめに入った。彼に苦笑いを向ける。

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