炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「額にサファイア魔鉱石がある氷の狼も、流氷の結界の水底で眠り、表には出ることは今後ありません」

 氷像の狼は、リアムの魔力補填装置。サファイア魔鉱石はオリバーとリアムしか扱えないが、第二のオリバーがいつ現れるかわからない。魔鉱石を盗まれ、研究されるわけにはいかない。

「クレア魔鉱石は壊れて割れて精霊獣が持ち、私が造った魔鉱石はミーシャ、リアムがそれぞれ持っている。狼の額分は、流氷の結界の中ということか」

「オリバー大公。もうサファイア魔鉱石は造らないでくださいね。造ったところで私が燃やして壊しますから」
 にこりと微笑みかけると、オリバーは苦笑いを浮かべた。

「オリバーおじさん。遊びに来たよー」
 ドアの向こうから、ノアが顔をひょこりと覗かせた。
「わっ! 陛下とおねえさんもいる!」
「ノア。『おねえさん』じゃありません。皇妃さまとお呼びなさい」

 ノアの後ろにすっと現れたのは、ビアンカだった。その後ろにはイライジャもいる。ビアンカの監視だ。

「帝都を救った英雄。偉大なる氷の皇帝に栄光を」
 ビアンカはリアムに向かってカーテシーをすると、ミーシャを見た。
「ご機嫌麗しゅうございます。帝国の女神、ミーシャさま」
 今度はミーシャがビアンカに淑女の礼をした。

 ノアがオリバーに近づこうとすると、それをビアンカが止めた。
「陛下がいらっしゃるとは知らず、申し訳ございません。我々は下がりますね」
「ええ? なんで?」
 ノアは明らかに不機嫌顔になった。

 オリバーの襲撃とカルディア王国の侵攻以降、ビアンカとノアの親子関係に変化があった。以前の彼女は常にぴりつき近寄りがたい空気を纏っていたが、今は柔和んな雰囲気だ。
 ビアンカは、特使として頑張っていた。カルディアヘイ兵捕虜の帰還交渉の際は、氷の宮殿の修繕費などを交換条件に織り交ぜ、うまく方針決定をさせたくらいだ。

「ビアンカ皇妃。そしてノア皇子。ちょうど良かった。オリバー含め、みんなに伝えたいことがある」
 
 リアムは、最後に部屋に入ってきたイライジャを見てから口を開いた。

「怪我の治療のため、保留にしていたオリバー・クロフォードの処分を通達する。これは、宰相のジーンを含め、法を管理、重んじる高官と決議決定したものだ。異議異論は受けつけない」
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