炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

自由を愛する風の民

「ねえ、お話はおわった? オリバーのおじさん、遊ぼう」

 顔をあげたオリバーはやさしく目を細め、ノアを見つめる。

「わかった。今日はなにをする?」
「どっちが先に氷の塊を溶かすか、勝負しよう!」
「それ、私は勝てないやつだ……」

 オリバーは眉根をさげながら笑った。

「ノア。オリバー大公殿下に無理をさせてはいけませんよ」
「かまいませんよ、ビアンカ皇妃。私は陛下からノア皇子への教育を拝命いたしました。誠心誠意尽くさせていただきます」
「……ありがとうございます」

 ビアンカは気丈に振る舞っているが、オリバーを見る目は複雑そうだった。

「ご指導を賜りますよう、お願い申しあげます」
 
 彼女は振り切るように、オリバーに背を向けた。そのまま部屋を出て行こうとした彼女はふと、ミーシャの前で止まった。
 なんだろう? と構えていると、

「ミーシャさま。宮殿がこんな状態ですが、しかし、民は切望しております」
「……ビアンカ皇妃。なんのことでしょうか?」

 彼女はちらりとリアムを見て、ふたたびミーシャに戻した。

「陛下のお世継ぎですわ」
「お……っ!」

『世継ぎ』の単語に、一気に顔が熱くなった。今すぐ雪を頭から被って、熱を冷ましたい。ミーシャはリアムを見ずに、小さな声で答えた。

「ビアンカ皇妃、今は国の復興が最優先です。陛下とその、……ですから、急いではおりません」

 正確には、リアムが子どもを望んでない。
 二人のあいだで、その話題はあがってこないのだ。あえて、避けられている。

 繊細で微妙な問題だが、ビアンカはそこにみんながいるにもかまわず、「急いでいないですって?」と、とげのある声でミーシャに詰め寄った。
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