炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「皇族に子どもが産まれると、国の安定に繋がります。しかもリアム陛下と今回、国を救った魔女とのあいだのお子となれば、他国への抑止にもなるでしょう。同盟国のフルラとは結束を強められます。民も活気づくことでしょう!」

「そ、うでございますね……」

「出産は体力がいります。若いほうが比較的リスクも下がり回復も早い。年齢があがっても望めますが、急いでいないなど悠長なことを言わずに、積極的に励みなさい!」

「で、ですが、私はまだ婚約者の身……」

 積極的に励めと言われて正直驚きだった。自分の子ども、ノアを皇帝につかせるため、厳しい教育を強いていたビアンカから、そんなことを言われるは思ってもみなかった。
ミーシャは動揺し、たじたじだ。

「後継者なら、王位継承権第一位のノア皇太子がいらっしゃいま……」
「ぼく、グレシャー帝国の皇帝にはならないよ!」

 オリバーと遊んでいたはずのノアがいつのまにかミーシャの傍にきて、見あげていた。にこりとほほえんでいる。

「継承権を、放棄するというのですか?」

 ノアは活発でまっすぐ、やさしい性格で魔力もある。能力的にもノアは国を治める器だ。甥を溺愛しているリアムが、放棄を許すとは思えない。

「ノア皇子。軽率にそういうことを口にしては……」

「ぼくね、カルディア王国の王様になるんだ!」

 ノアの言動を諫めようとしたミーシャは、かけようとした言葉を失った。

「…………え、ええっ! どうしてですか?」

 母親のビアンカを見た。彼女は眉尻をさげ、目は弧を描いている。困りながらも喜んでいるように見えた。
 
「カルディア王国には、魔力がある王位継承者がいないんだって」

 ミーシャはもう一度ノアを見た。彼と視線を合わせるためにしゃがむ。

「ノア皇子は、カルディア王国でも継承権が発生するのですね?」
「うん。ぼくの血、半分カルディアだからね。少しだけど、風も操れるんだよ」

 閉ざされた室内にもかかわらず、ミーシャの長い髪がふわりとそよぎ、浮かんだ。
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