炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「おまえ、アルベルトの当主は俺だぞ。もっと敬え!」

 ナタリーはジーンに冷たい目を向けると、ツンと顔を横に逸らした。
 最近、彼女は良家との縁組みに積極的だというが、ナタリーを妻にと望む求婚者が多すぎて、うまく纏まらず難航しているらしい。

 今はミーシャと過ごす時間もあるが、氷の宮殿の修繕が済み、国が安定するといずれ、ナタリーも家を出ていくのだろう。

「ナタリーさまと離れるの、さみしいわ」
「……陛下より、私が恋しいのですね。だったら、しかたありません。すぐに帰ってきてくださいませ」

 ミーシャはナタリーとそっと抱きしめた。

「ナタリーさまもどうか、幸せになってください。……お祈りしております」

 ナタリーは「もちろん、幸せになるわ」と力強く答え、ミーシャを抱きしめかえしてくれた。


「ミーシャさま、馬車の前に陛下がお待ちです」
「馬車……」

 ナタリーや侍女たちに別れのあいさつを済ませ、ジーンのあとをついて行く。ミーシャは、彼にだけ聞こえるようにそっと、その背に問いかけた。

「あの。同じ馬車に、ジーンさまもご乗車しますよね?」

 ジーンは立ち止まり、半身振りかえると丁寧に答えた。

「これからミーシャさまがご乗車される馬車は、皇帝陛下と皇后陛下専用でございます。陛下とお二人だけで乗っていただきます」

『煽るだけ煽っておいて、お預けか』

 リアムに言われた言葉が頭を過ぎり、勝手に顔が熱くなる。

「二人きりの個室は、危険です」
「はい……? 危険?」

 ジーンは不思議なものを見るような目でミーシャを見つめ、首を傾げた。

「隣国含め最強のお二人です。敵が襲ってきても瞬殺で返り討ちでしょう? どこにも危険などございません」
「そ、うですね」

「ミーシャさま。馬車がご心配でしたら、単騎に二人乗りして駆けるのはいかがですか?」
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