炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
極寒だが、広大な大地を有するグレシャー帝国には、貴重な資源が豊富だ。他にはない魅力がある。フルラ以外の他国とも隣接していて、なにかと争いが絶えない。大国を守る氷の皇帝がいなくなると喜ぶものが残念ながらいる。

「陛下の命と、そして、……クレア魔鉱石だったわ」

 ミーシャは息を呑んだ。全身に冷や汗が浮かぶ。胸がぎゅっと締めつけられて痛い。思わず手で押さえた。

「幻影を使って、自白させたの。ただ、陛下が持っている確証はなく、情報を得るのが目的だったみたいね」
「そう、ですか」

 彼女は炎を操り、敵に幻影を見せることができる。エレノアやジーンたちの帰りが遅くなった理由はリアムの予想どおり、新手の敵がいないかと、情報を引き出すためだった。

「今ごろ、陛下の耳にもこの情報が入っているはずよ」
「クレア魔鉱石は十六年前に一緒に燃えた。存在しないと陛下は公表していますよね」

 ミーシャの問いに、エレノアは「ええ」と答えた。

「でもクレアが作った本物の魔鉱石は、きっと陛下が今も持っている」

 リアムに魔鉱石を託したのは自分だ。彼はなくしたりしない。

「エレノアさま。実は婚約は表向きです」
「……どういうこと?」

「白い結婚の期間に陛下の治療をする契約なんです。凍り化を止めたら、その時点で私はここへ帰ってきます」

 説明しながら契約内容が書かれた用紙を彼女に差し出した。

「陛下を治療するために傍にいるつもりなのね」

 契約を読み終えると、エレノアは視線をあげた。

「できれば魔力を使わないで欲しいと、説得しようと思っています」
「陛下からは、魔女の印象をよくすること。……なるほど。自分の利ではなく、お互いを想い合った条件ね」

 言われて見ればそうだ。相手のことを心配し、改善するための条件を提示している。
 封筒に契約書を戻しながらエレノアは言った。
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