炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「ミーシャ。帰って来る必要はありません。陛下の病を治した功労をもって、堂々と正妃になればよいでしょう」

 目を思いっきり見開いた。ぶんぶんと首を横に振る。

「無理です。私は、クレアの生まれ変わりです。たとえ治療がうまくいったとしても、一番正妃に向いていない者が、この私です」

 エレノアは眉根を寄せた。

「あなた、自分の正体がクレアだって、陛下に打ち明けたのよね?」
「まさか。話してはいません。理由は……、」
「彼の足を引っ張りたくないからよね。負担になりたくないと、何回も聞いたわ」

 ふうっと大きなため息を零すと、彼女は近くのスツールに座った。

「婚約を受け入れたと言うから、てっきり、自分がクレアだと話したんだと思ったわ」
「そういうわけにはいきません」
「この先も、隠しとおすつもりなの?」

 ミーシャは頷いた。

「病の原因を聞いて、より強く思いました。……万が一、陛下の妃が悪い魔女クレアだと知られれば、陛下は国内外から非難される。暴動、反乱、隣国からは危険国扱いを受けるでしょう。孤立ならまだましですが、戦争にでもなったら大変です。そうなっては取り返しがつかない」

 リアムは自分を傷つけながら氷の結界を発動させ、国を守っている。やり方には反対だが、元師匠として、弟子の努力を無駄にするわけにはいかない。

「リアムは、大事な人たちを狂わせ、炎の中に飲み込んだ師匠のことを憎んでいるかもしれない。小さな彼の目の前でクレアは炎となって消えた。トラウマになっていてもおかしくないです」

「それはないと言っているでしょう? 憎んだ相手の墓参りに、国を超え、毎年来たりはしないわ」
「私には時間がない」

 エレノアは言葉を詰まらせた。つらそうに顔をしかめているが、ミーシャは続けた。

「魔女なのに魔力はほとんどなく、このブレスレットと、炎の鳥がいなければそのうち動けなくなって、寝たきりになる。いつ死んでもおかしくない身体です」
pagetop