炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

氷の宮殿と皇帝陛下

 
 ――一月(ひとつき)後。
 ミーシャは馬車で北に向かっていた。

 粉雪が、朝陽に照らされて煌めきながら静かに舞っている。

 窓から手を差しだして、ひんやりとした風の中、雪を追いかける。
 小さな氷の結晶はふわりと逃げていくばかりで、捕まえられない。苦笑いを浮かべながらミーシャは呟いた。

「白くて、きれいな国ね」

 隣国のグレシャー帝国は、一年の半分以上が雪と氷に覆われている氷の国だ。

 初めて訪れるあこがれの地は、想像していたとおり美しい銀色の世界だった。木々の枝葉には雪が積もり、満開の白い花のように見える。
 
 吐いた息も白い。それだけで心がはずむが、今回の目的は観光ではない。緩んでいた頬をぐっと引きしめた。
 
「あれが、流氷の結界ね」

 視線の先に、青白く光る大河があらわれた。水面の九割が氷だ。

「水は生活水として使っても問題ないそうですが、侵入者は容赦なく生きたまま氷漬け。現皇帝陛下は英雄で賢帝らしいですが、氷のように冷たい『氷の皇帝』、『孤高の狼』という噂です」

 リアムと再会したあの夜、ライリーたち侍女はさがらせた。

 ――直接リアムと会ったことがないから、不安だよね。
 
 ミーシャは、膝の上で固く握っている彼女の手に、自分の手をそっと重ねた。

「大丈夫よ。陛下はやさしい人です」

 安心して欲しくて、冷たい彼女の手を両手で包みこんで温める。

「私のわがままで、ここまで連れてきてごめんね。だけど、あなたが必要なの」

 ライリーは一瞬目を見開いたあと、泣きそうな顔になった。ぐっと唇を引き結び、背筋を伸ばすとまっすぐミーシャを見た。
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