炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
小さな皇子さま
「陛下。お話中に申しわけございません。私は少々、風に当たってまいります」
ミーシャは鈍い痛みがする胸にそっと手をそえて、頭をさげた。
「風? わかった。俺も行こう」
「一人で大丈夫です。陛下はナタリーさまとのご歓談をお楽しみくださいませ」
お辞儀をすると、足早にその場から離れた。
――苦しいのはきっと、着慣れないドレスのせいね。
ミーシャは顔をあげて、あらためてフロアを眺めた。
バイオリンが奏でる優雅な音楽が流れ、はなやかな宴が続いている。
立食形式でテーブルの上には美味しそうな料理がたくさん並んでいる。広い会場を埋め尽く来賓客は千人以上だという。それぞれが自由に酒を飲み、食事をして会話を楽しんでいる。
和やか雰囲気は祖国のフルラを思わせた。
形式にこだわりすぎず、自由なパーティーにしたのはリアムの案だと、宰相のジーンが言っていた。
極寒の地を、何百年、何世代も繋いで守ってきたクロフォード王家。
歴代の王の庇護のもと、豊かになったグレシャー帝国で幸せに暮らす人々。
よそ者で悪い魔女の自分は、晴れやかな場に不釣り合いで異物のように思えた。
自分の肩を両手で抱く。
暖かいはずの会場でひとり、ミーシャだけが凍えるように寒かった。
「どうしたの? 寒いの?」
かわいらしい声で話かけられて、思わず立ちどまった。
振り向くと、黒を基調とした礼服に身を包む、五、六歳くらいの男の子がいた。
澄みわたる空のような碧い瞳の彼は、不思議そうに首をかしげ、心配そうにミーシャを見ている。
「リアム……皇子?」
少年は、出会ったころのリアムにそっくりだった。