炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

「触れてみたいと思ったのは、きみが初めてだ」

指先にそっと彼の冷たい唇が触れ、驚いて目を見開いた。

「きみは、特別だ。わかった?」

 彼の氷のような碧い瞳に、そばにあるかがり火が映り込んでいる。胸を焦がすような熱い眼差しに、一瞬めまいを覚えたが、

「私は、触れても凍らない。炎の魔女だからですね」

言葉をそのまま受け取ってはいけない、勘違いしないように自分を戒めた。すると、と、彼は一歩、ミーシャに詰め寄った。

「炎の魔女は、関係ない」

 リアムはミーシャの髪に触れた。一束掬うように持つと、するりと毛先まで滑らす。そして、乱れた髪を手で梳き戻すと、じっと、見つめた。

「きみの髪は美しいな」

 心臓が強く跳ねた。ミーシャは自分の髪を握ると引っ張って、彼から遠ざけた。

「私の髪は、陛下の治療の役にたちません! 触っちゃだめ!」
「お願いはしないのに、命令はするのか……」

 リアムは少し呆れた顔で言った。
 皇帝に向かって、子どもを叱るみたいにだめと言ってしまった。ミーシャはすぐに、「申しわけございません」と、か細い声で謝った。

「謝らなくていい。いやなものはいやと言ってほしい」
「陛下……」

 やっぱり、リアムはやさしいと思ったが、次の瞬間、

「聞き入れるかは別だが」

 ふっと、笑いながら言った。ミーシャは目を見開き、絶句して固まった。
 
「陛下、……やさしいのか、いじわるなのか、はっきりしてください」
「それは難しいな」

 彼は正面を指で差した。

「令嬢、寒いかもしれないが、中庭を突っ切って帰ろう」

 見ると、玄関を出た先には来賓用の馬車が整然と並んでいる。

「氷の宮殿は大きくて広い。上空から見ると六花、雪の結晶の形になっていて、それぞれの建物は独立している。すべて回廊で繋がっていて、建物内を通ったほうが暖かいが、遠回りなんだ」

「陛下は雪、平気ですものね。庭を横切ったほうが近道で早いんですね」
「そういうこと。だから、きみはこれを着て」

 リアムは自分が着ていた外套(クローク)をミーシャの肩にかけると、再び抱きあげた。
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