炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「ようやくこの日を迎えられましたね。陛下、よかったですねえ」

 一ヶ月前。ミーシャと出会った月明かりの夜、グレシャー帝国の結界に異変が起きて、リアムは緊急帰国したため、昨日まで彼女に会うことが叶わなかった。

「そうだな。やっと会えた」
「まあ、無表情。関心のない顔をしても無駄ですよ。楽しみで、そわそわしていたくせに」

 にやけ顔をやめない若き宰相に、リアムは冷たい視線を送る。

「興味はあるよ。言っただろ。彼女からはクレア師匠と同じ魔力を感じる。ミーシャは髪の色が違うだけで、クレアにそっくりだ。さすが血縁者といったところか」
「師匠に似ている。それだけですか?」

「治療にはさほど興味ない。婚姻も、彼女を探るためだ」
「いえいえ、陛下。治療にも、彼女にももっと興味を持ってくださいよー。まあ、なにはともあれ、やっと! 陛下のもとへお妃さまがやってきた!」

「まだ妃じゃない」
「いえ、もうお妃さまで決定です!」

 浮かれている相手になにを言っても無駄だ。リアムは呆れつつ、室内に戻るため歩きだした。ジーンはすぐに追いつき、ぺらぺらと話しながら後ろをついてくる。

「陛下。治療が長引けば、そのまま彼女を妃にするのはどうでしょうか?」
「治療の結果がどうなろうが、春になったら彼女を国へ帰す。そういう約束だ」
「お言葉ですが、陛下。彼女は手放してはなりません」

 いつもふざけてばかりの男が急に真面目な声で言った。珍しいと思い、リアムは立ち止まった。

「ミーシャさまは他者を思いやれるやさしいおかたです。自己の主張ばかりの令嬢とはあきらかに違います」
「俺の身分を知っているからだと思うが」

「そうだとしたら、なおさらです。刺客には立ち向かうし、陛下の体調に気づき瞬時に判断し、行動に移せる肝のすわった令嬢などそうはいません。パーティーの前に彼女と話す機会がありましたが、自分のことより陛下を気づかっておられました。パーティーでも堂々としていてご立派でした。皇后にふさわしい器を備えているとお見受けしております」

「ずいぶんな肩入れだな」

 茶化して返したが、ジーンが熱弁するのも理解できた。
 ミーシャ・ガーネットはこれまでに出会った令嬢とはあきらかに違う。強く輝く炎のようで、正直、惹かれるものがある。だがーー

「師匠と同じ瞳を持つ彼女が気にならないと言えば嘘になる。だから丁重に出迎えるし、待遇は良くするつもりだ」

 ジーンは「ええ。そうですね」とうんうんと頷いている。
 リアムは期待で浮かれている臣下に釘を刺そうと、彼の真正面に立った。

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