炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

冬の薬草探し


*ミーシャ*

 グレシャー帝国にきて十日がたった。
 初日はいろいろとあったが、今は自由で、少しずつここでの生活に慣れはじめている。

 氷の宮殿で生活してみて、わかったことが二つある。一つは、予想以上に寒いこと。そしてもう一つは、リアムの忙しさが尋常じゃないことだった。

 彼は皇帝だからと、贅沢をして過ごしたりはしない。
(まつりごと)も宰相のジーンに任せきりにせず、あれこれと施策に明け暮れていた。

「薬草が、足りないわ」

 治療方法を考えたとき、温かい飲み物で身体の芯を冷やさないようにしてみてはどうかと思った。しかし、毎日となると現地で調達できないといけない。

 ミーシャは国から持ってきた草を作業台の上に並べて、ため息をついた。

「今は晩秋よね。フルラ国ならまだ気温も零度を下回らないし、紅葉がすばらしい時期なのに」

 極寒の国グレシャー帝国は違う。常に零度以下で、雪が降り続けている。
 外へ薬草を取りに行きたくても草花は雪の下。地理もよくわからない。

「氷の宮殿の外へ行きたいけど、許可はおりないよね……」
「そもそもお妃は、むやみやたらに城下へ赴いて、草など採取しませんよ」

 ミーシャの身の回りを整えながら、侍女のライリーは苦笑いを浮かべた。

「今日も研究と、陛下の本を読んでお過ごしなさってはいかがですか?」
「興味を惹かれる本は全部読んでしまったわ」
 
 引きこもりは苦じゃない。この数日、おとなしく部屋にある大量の本を読みあさり、薬を作って過ごした。だが、そろそろ本格的に動きたいところ。

 炎の鳥を連れてミーシャは、バルコニーに出た。今朝調合した少量の薬を鳥の足に結ぶ。

「遠くてごめんね。フルラ国までお願い」

 薬は祖国にいたとき届けていた老夫婦の分だ。炎の鳥を雪降る空に解き放つ。

 リアムが操作しているという気象だが、最近は青い空を見ていない。ずっと、灰色の雲がたれこみ、吹雪いている。

 ――雪に負けず、無事に渡れますように。

 小さな炎は白い世界に溶けるように、見えなくなった。
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