炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
 ライリーに声をかけられ空を見あげる。南中にあったはずの太陽はずいぶんと西へ傾いていた。

「雪遊びじゃなくて、薬草探しよ」
「さっきまで雪合戦して喜んでいたじゃないですか! おかげで私、雪まみれです!」
「ごめんごめん」

 ミーシャは炎の鳥を数羽呼んだ。雪で濡れてよれよれのライリーの周りを飛んでもらう。

「ライリーはそこで温まっていて。私はもう少し、探してみる」

 収穫がないまま戻りたくない。だがライリーは首を横に振った。

「陽は傾き山の向こうです。食事までに着替えて、身支度をすませてしまいましょう」
「……まだ大丈夫よ」
「だめです」
「いやよ」
「陛下がいつ戻っていらっしゃるかわからないのですよ。準備は大事です!」

 ミーシャはぴたりと動きをとめた。

「だから帰りたくないのよ……」とぽそりと呟く。
「治療を申し出たのはミーシャさま自身でしょう? ここまで来て、投げ出してどうするのです」
「投げ出していないわ、王家の秘蔵文献を見せてもらったり、こうやって身体を温める効果がある薬草を探しているわ」

 リアムから特別に、クロフォード家についての歴史書を見せてもらった。予想どおりみんな魔力が強く、そして、短命だった。いずれも凍化が進んだことで寿命を縮めている。

「ミーシャさまの身体が冷たいと、寝所で、陛下を温めて差しあげることができま……、」
「だから私、夜のことは考えたくない……!」

 ライリーを振り切るため子どものように走りだした。が、新雪にずぼっと足がはまり、顔面から倒れこんだ。

 頭や顔いっぱいに雪をつけたままゆっくり立ちあがり、振り返る。

ライリーとイライジャは真顔でミーシャを見たあと、ぷっ。と、それぞれ声を堪えて笑った。

「ほんとミーシャさまはお子さ……(うい)おかたですね。治療と言っても、今はただ、一緒のベッドで寝起きしているだけでしょう? そろそろ慣れても……」
「慣れるわけないでしょう!?」

 ミーシャの叫び声が、庭いっぱいに響き渡った。
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