炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「……そうですか。残念です」

 それが嘘だということを、クレアの生まれ変わりのミーシャは知っている。

 リアムが教えてくれないのは想定していた。
 魔鉱石は力を増やす道具。第三者の手に渡り、オリバーのように研究されたり悪用されないためには、「存在しない」のが一番いいからだ。

「魔鉱石があれば、そこに炎の鳥を宿せる。完治はできなくても、陛下が凍えることはなくなると思ったんですが、ないのでしたらしかたありませんね」

ミーシャの正体はクレアです。と、彼に打ち明ければ、魔鉱石を使った治療が出来るかもしれない。けれどその代わりに、今の関係は終わり、以前の師弟関係に戻ってしまう。

 ――春が来たらこの関係も終わり。とはいかなくなる。
故郷に帰ったら、これまでどおりひっそりと、人々に償う日々を送りたい。

そもそも、『クレア』が陛下の傍にいると世間に知られれば、彼の立場が危うくなる。
悪い魔女を復活させた愚帝だと思われ、反逆にあうかもしれない。

元師匠として、弟子に余計な負担やリスクを負わせたくない。正体は知られずに、病の進行を止めるべきだ。

――もっと、信頼してもらわなくちゃ。

『ミーシャ』として、炎の鳥を魔鉱石に宿し身につける、対処療法を試そうと、説得を続けるしかない。

「わっ!」

 考え事をしていると突然、窓が強く揺れた。
雪が混じった風が閉じられた窓をこじ開けようとするみたいに、強く吹きつけている。

部屋の灯りも、暖炉の火も同時に消えて、まっ暗になった。

 ミーシャはあわてて手を高くかざし、炎の鳥を呼んだ。消えてしまった明かりを灯すために、順番に燭台に飛び移ってもらう。

「陛下、大丈夫ですか」

 その場にしゃがみ込んだリアムの顔には霜が降りはじめていた。

「吹雪は陛下が? 凍化病が進行したんですか?」
「……流氷の結界が、敵を捉えた」

 ミーシャは目を見開いて固まった。
結界が作動したということはつまり、敵意ある者が侵入しようとしたということだ。
 リアムは立ちあがると、部屋を飛び出した。

「陛下! そんな身体でどこへ?」
「きみはここにいて」

 険しい顔で彼は走って行ってしまった。

「どうしよう。なにかあったんだわ」

 部屋の中へ戻ると、炎の鳥を呼べるだけ呼んだ。厚手の外套を羽織り、彼の外套を手にすると、急いでリアムのあとを追った。



 
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