直月くんは、キケンな恋に沼りたい
「今なら私が、直月の願いを叶えてあげられるよ」
「僕の願い?」
「直月の隣から、いなくなってあげるね」
「えっ?」
「もうまとわりつかないから、安心して」
「……っ」
「じゃあね、バイバイ」
笑って手を振る亜里沙が、僕に背を向けた。
そのまま走り出した亜里沙。
『廊下は歩け!』
風紀委員として日常的に口にしている言葉すら、喉の奥に詰まって出てこない。
淋しさにに似た罪悪感に襲われながら、僕は笹に結ばれた短冊を瞳に映した。
『直月先輩は、私の彼氏です。一生、誰にもとられませんように。 加藤 柚葉』
この時僕は、心の底から恨んだ。
――柚葉さんの仮の彼氏になる。
そんな約束を交わしてしまった、最低最悪な自分のことを。