【BL】SAY YOU LOVE ME










「本城くん、喉は開いてるけど腹筋が弱いのかなぁ?
もう少し筋トレした方いいかもね」




涼さんもかつて師事したのだという、ヴォイストレーニングの谷先生がピアノを弾く手を止めた。

スキンヘッドに和柄のシャツ。
首もとには大仰なチェーンネックレスと外見はいかついけれど、声はとても優しいのだ。


「はい、スミマセン頑張ります」


頭を下げた僕に谷先生は目を細めて頷いた。


「涼の奴とは比べものにならないくらい、本城くんはいい子だよなぁ…
涼は元々歌い方が固まってたから、俺の言うことに耳を貸さなかったよ」

「いえっそんな!
僕はズブのど素人ですから、先生の言うことにを聞くのは当たり前です。
それに、涼さんだって先生に感謝してるから僕を紹介してくれたんです」


そう。
先生の所へ行くようにと遠山さんに指示したのは涼さんだった。


先生は必死に弁解する僕を可笑しそうに見ていた。
その微笑でいた目がふと沈んだ。


「歌えなくなってからじゃ遅いさ。
あの歌い方じゃ喉が潰れるのは分かってた……
アイツは俺の忠告なんて無視し続けて、今になって後悔して君をここに寄越したんだろな」



それはまるで、止められなかった自分をも後悔しているような表情だった。


僕は何も言えずに
脳裏に蘇った涼さんの歌う声に耳を澄ます。


叫んでいるのか
何かにすがっているのか
誰かを求めているのか


そんな声。




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