元皇女なのはヒミツです!
「――で、話とはなんだ」
国王の執務室で書類に目を通しながら父上は素っ気なく言った。
「以前お話した婚約の件なのですが……」
父上はおもむろにペンを置いてため息をつく。
「今年の狩り大会は優勝者はいない」
「でっ、ですが、魔獣を倒したのは自分が一番多かった! 話だけでも聞いていただけませんか!?」
僕は思わず気色ばんだ。
無理を言っているのは自分でも分かっている。だが、どうしても諦めなかった。
「……どうせ、エカチェリーナ皇女のことだろう」
「その通りです、父上。彼女はまだ――」
父上は片手を上げて僕の言葉を制止させた。
「お前の言いたいことは分かる。だが、あちらから公式に皇女の死亡と婚約解消を宣言したのだから仕方がないだろう。もう終わった話だ」
「ですが――」
「自覚を持て、フレデリック」
にわかに父上の視線が厳しくなった。これは父親ではなく国王の目だ。背筋がぞくりとして覚えずピンと姿勢を正した。
「お前はリーズ王国の王太子だ。国の未来のことを考えろ。このまま生死の分からない皇女を延々と探し続けるつもりか?」
「っつ……」
僕は唇を噛む。二の句が継げなかった。悔しいが父上の言うことは正論だ。
自分は将来は国王となってこの国を治めなければならない。その為にも杳として行方不明の婚約者をいつまでも待つよりも、卒業したらすぐに王太子妃を迎えたほうが建設的だろう。
分かっている。それは分かっているのだが……。
「せめて……せめて、卒業まで待っていただけませんか……!」
父上はなにも言わず、手を振って退出を促した。僕は肩を落として踵を返す。
「次は婚約者候補との茶会を欠席しないように」と、父上は僕の背中に向かって冷たく言い放った。
「……分かりました、父上」