元皇女なのはヒミツです!
「だって、身分の上の方から話し掛けられて、無視をするほうがいけないことでしょう? 貴族社会ってそういうものじゃないの?」と、私は首を傾げた。
水が上から下に流れるように、身分の高い者から低い者に声を掛ける。川は決して逆流しないのだ。
「あんたがっ!」グレースは声を張り上げる。「あんたが殿下の周りをうろちょろしているからお優しい殿下は仕方なく相手をしてあげてるんでしょうっ!? なんでそんなことも気付かないのかしら、この愚かな平民はっ!」
「別に私は殿下の周りをうろついていないわ」
「なんですってえぇぇぇぇっ!?」
グレースは顔を真っ赤にさせて悪魔のような形相で私を見た。
はぁ……これ以上彼女を怒らせると厄介なことになりそうだわ。ここは引き下がるほうよさそう。
「分かったわよ。次からは失礼のないように最低限の挨拶だけにするわ」
「そう? 分かればいいのよ、分かれば。これからは気を付けなさい!」
「はいはい。平民のくせに出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした」
グレースは打って変わって上機嫌で子分二人を連れて去って行った。あぁ、疲れた。本当に面倒な子たちだわ。
私も教室へ向かおうと腰を上げた折も折、
――バシャッ!
頭上にバケツ一杯のゴミをぶちまけられた。
「あらぁ~、ごめんなさぁい! ゴミかと思ったわぁ~!」
上を見ると、名も知れぬ令嬢たちが意地悪そうにくすくすと笑っていた。矢庭にむかっ腹が立ってきて、小さな吹雪を起こして彼女たちの持ち物を全て吹き飛ばしてあげた。