元皇女なのはヒミツです!

26 小さなお姫様①

「わたしが気に入らないって言っているでしょうっ! さっさと他のものを持って来なさいっ!」

「で、ですが、お嬢様……」

「早くしなさいよっ!」


 シェフィールド公爵家に到着して、執事に先導されて公爵令嬢の部屋に向かっていると、奥のほうから怒鳴り声が聞こえた。
 執事はおもむろに振り返って私を見て、ぎこちない愛想笑いをする。私も苦笑いを浮かべた。あの怒鳴り散らしているのが件の小さなお姫様ね。

「こちらでございま――」

「だから、違うって言っているでしょうっ!」

 ガッシャーン、となにかが壊れる音がした。女性の短い悲鳴が聞こえる。扉の向こうは剣呑な雰囲気だった。

「しょ、少々お待ちくださいませ」と、執事は先にその混沌の中に入って行く。その間もぎゃあぎゃあと女の子の騒ぎ声が漏れてきて、にわかに頭が痛くなった。これは……グレースより面倒そうな子だわ。


「どうぞ」

 しばらくして、部屋に入る。すると、中の悲惨な光景が目に入ってきて閉口した。
 美しく整頓されていたはずの公爵令嬢の室内は鏡台を中心にぐっちゃぐちゃ。割れた手鏡やたくさんの装飾品が床に散乱し、更には花瓶も割れて水浸し。若いメイドが泣きながら掃除をしていた。
 公爵令嬢は近くにあったネックレスをメイドに投げ付けて、

「早くしなさいよ! この薄のろ!」と、追い打ちを掛ける。

「も……申し訳ありませ……っつ……」

 ついにメイドはその場で泣き崩れた。
 その地獄のような情景に部屋中がしんと静まり返って、メイドのすすり泣く声だけが悲しく響いた。

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