元皇女なのはヒミツです!
私たちは睨み合った。
側に控えている執事やメイドたちも固唾を呑んで見守っている。不穏な空気が穏やかな庭にも染み込むように広がっていった。
「仕方ありませんね……」
ややあって私が先に口を開く。公爵令嬢は自身の勝ちを確信したのか口元を緩めた。
だが彼女の期待とは裏腹に、私は教科書は拾わずに魔法を唱えて彼女の小さな足元を凍らせた。
「なっ……なにするのっ!?」
公爵令嬢は動揺して思わず立ち上がりそうになったが、足をカチコチの氷で固定されて動けない。
「ちょっと! なによこれ! 早く消しなさい!」と、公爵令嬢がぎゃあぎゃあ文句を言っている間も氷はじわじわと上昇して彼女の身体を蝕んで行った。
「さぁ、早く教科書を拾わないとあなたの全身が凍ってしまいますよ」と、私はニヤリと笑う。
「ぜっ、全部凍っちゃったらどうなるの……?」
公爵令嬢は目に涙を溜めて不安げに尋ねた。
私は他人事のように首を傾げて、
「さぁ? 心臓まで凍ったら死ぬんじゃないですか?」
「拾えばいいんでしょっ!!」
公爵令嬢は慌てふためきながら地面に落ちてある教科書を拾った。するとギャラリーから拍手が起こる。私は魔法を解いて、そしてなぜか彼女は得意げにふふんと笑ってみせた。
「宜しい。公爵令嬢様、今後はこのような嫌がらせは止めるように。もし同じことを繰り返すようでしたらこちらもばんばん報復します」
「分かったわよ! 止めればいいんでしょ!」
「ちなみに公爵家の使用人はあなたの奴隷ではなく、あなたを支えてくれる人たちだということをお忘れなく」
「もうっ! うるっさい! さっさと授業を始めて!」