元皇女なのはヒミツです!
「いや、君がさっきからずっとあの出店を見てたからさ。良かったら食べてくれ」と、彼は私の手に包み焼きを押し込んだ。自身の無様な姿を見られていたと思うと羞恥心で途端に顔が赤くなる。
「あ、ありがとうございます。そ、その、私、田舎から出てきて、か、買い物の仕方が分からなくて……」と、私は慌てふためいて聞かれてもいない言い訳を並べた。
「はははっ、誰だって初めての買い物は緊張するよね。僕も同じ経験があるからよく分かるよ」と、彼は可笑しそうに声を上げて笑った。
「本当に助かりました。あの、お代を」
私が懐から財布を出そうとすると彼は片手を上げて遮って、
「これは僕からのプレゼントだよ。次は一人で頑張ってみてね」と、ニッコリと笑った。
「あ……ありがとうございます、貴族の方!」
「えっ!?」にわかに彼の美しい顔が引きつった。「僕は……貴族に見えるのかな?」
「えっ、違うのですか?」
私と彼は目をぱちくりしながら互いを見つめ合った。
この高貴さを隠せない立ち振舞は紛うかたなく貴族だと思うけど……それも高位の。言ったらいけなかったかしら?
「やっぱりバレバレじゃないですか、ご主人様」
不意に彼の後ろから人影が現れた。こちらも一目で貴族だと分かる。ただ、彼よりかは身分は低そうだ。
「まさか、その身なりや立ち振舞いでお忍びのつもりだったのですか?」
私は思わず吹き出した。
たしかに服装の質は落としているようだけど細部まで手入れが行き届いているし、発音や立ち姿も貴族そのものだ。ターニャさんに一年間みっちり教育されて完璧な平民となった私には程遠いわね。現に二人とも私が元皇女だって微塵も思っていないわ。
「う~ん……庶民に擬態できていると思ったのだが……」と、彼は困ったように苦笑いをした。
「あなたのようなキラキラした方は平民にはいませんよ」
「ほらね、ご主人様」
「そうか」彼はがっくりと項垂れて「もっと研究して次は上手くやれるようにするよ」
「うふふ、次も見つけて差し上げますよ」
「それは参ったな」