元皇女なのはヒミツです!
私たちは互いの旅の無事を祈って別れた。
聞けば彼らはアレクサンドル連邦国へ向かう途中だったらしい。連邦はそろそろ春が訪れて過ごしやすい季節がやってくるが、その前にあの雪解けのドロドロが待っているのよね。あれはあまりいい景色ではないわ。彼らが連邦を気に入ってくれるといいけど。
美味しい包み焼きを食べたあと、私は思い切って宿屋の門をくぐった。
さっきの彼らのお陰で少しは緊張が解れたみたい。ちょっと勇気を出して最初の一声を掛けるとあとは案外すいすい事が運ぶものなのね。宿泊の手続きを済ませて、一階の食堂で夕食をいただいて、部屋に入るなりベッドにゴロンと倒れ込んだ。
「ふぅ~、疲れた……」
多くの体験をした一日だった。あんなに座り心地の悪い馬車は初めて乗ったし、旅先で素敵な出会いもあったし、一人で宿屋に泊まることができたし。これでまた平民としての経験値を積んだわね。
私はいっぱいの充実感を胸に抱きながら目を閉じた。
少し休んで、おもむろに起き上がる。そして机に便箋を出してペンを取った。