元皇女なのはヒミツです!

 でも、私は盗みなんてやっていない。アレクサンドル家の人間として、そんなこと絶対にしないわ。
 私の心にはまだ誇りが残っている。それは誰にも汚されることのない聖域だ。

 私は右手を心臓に当てた。その上に左手を添える。アレクサンドル民族に伝わる宣誓の姿勢だ。

「私は決して盗みなんてやっていないわ。偉大なる神と、祖国の大地と、父ニコライに誓って――」

「リナっ!!」

 そのとき、セルゲイが大声を出して私の言葉を遮った。周囲は水を打ったように静まり返る。

「こんな茶番に我が民族の宣誓をしなくていい」

「で、でも――」

「皇帝陛下の名前を出すな」と、彼は私の耳元で囁いた。

「あっ……」

 私ははっと我に返る。泥棒扱いされて頭にかっと血が上って、考えなしに行動してしまった。

 アレクサンドル人男性でニコライという名前は珍しくはないが、私の場合は絶対に皇女だと悟られてはならない。だから、少しでも疑われるような言動をしてはいけないのだ。

「気持ちは分かるが、少し頭を冷やせ」

「ごめんなさい……」
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