元皇女なのはヒミツです!


「で、殿下……こ、この度は申し訳ありませんでした」

「その話は後で。破片で怪我をしているじゃないか。見せてごらん」

 見ると、両手がところどころ切れて血まみれになっていた。事件のせいで全然気付かなかったわ。

 フレデリック様は回復魔法を唱える。
 私は日々の労働で荒れた手を彼に見せるのがなんだか恥ずかしかった。周囲の令嬢たちの美しい手を目の当たりにして、もう身分が違うのだと改めて実感した。
 そんな風にまだ未練がましく過去の位にしがみついて、平民の自分を受け入れていないことに気が付いて、激しく自己嫌悪した。

 回復魔法の光は私のねとつくようなどす黒い考えと反比例をしてとても暖かく、ますます惨めな気分になった。

「これでよし。今日はゆっくり休んで。またね?」

「ありがとうございました。……では、失礼いたします、王太子殿下」

 私は一礼する。こんな大事になってしまって、もう彼に合わせる顔がない。

「俺が送りますので」と、セルゲイが私の隣に立った。フレデリック様は深く頷く。

「あ、お待ちになって」

 フローレンス様がこちらに向かって来た。

「今日のことは不問にするわ。だから、胸を張って学園にいらっしゃい?」

「慈悲深いお言葉、ありがとうございます……」

 そして彼女は私の耳元に顔を近付けて、誰にも聞こえないような小声で囁く。

「本当にあなたには感謝しているのよ? だって、今日の出来事のおかげで殿下との婚約話がぐんと進展しそうなんですもの。ありがとう、リナさん?」

 フローレンス様はくすりと笑った。
< 192 / 371 >

この作品をシェア

pagetop