元皇女なのはヒミツです!
「あら、パッション伯爵令嬢じゃない? こんなところでどうなさったの? もう授業中でしょう?」
グレースが顔を上げると、帝国人とはまた別の嫌いな人物と目が合った。王太子殿下の婚約者候補のフローレンス・フォード侯爵令嬢である。
「……フローレンス様こそ、どうされたのですか? もう完全に遅刻ですよ」と、彼女は嫌味を込めた質問で返す。
この女のことも気に食わない。
まだ正式に決まっていないのにエカチェリーナ様を差し置いて、王太子殿下の婚約者面をして。
周囲は侯爵令嬢のことを褒め称えるが、単に自己顕示欲の強い性悪な女じゃない。こんなのが未来の王太子妃だなんて、あたしは絶対に認めない。
「あぁ、わたくしは家の用事があったので予めに許可をいただいていたのよ。ご心配、ありがとう?」と、侯爵令嬢はくすりと笑う。なんだか馬鹿にされたような雰囲気にグレースは気色ばんだ。
「どうしたの? なにを怒っていらっしゃるの? わたくしで宜しければ相談に乗るわよ?」と、侯爵令嬢は怒る彼女に追い打ちを掛けるように、素知らぬ顔で言う。
「別に……なんでもありませんので」
グレースが侯爵令嬢を避けて足を進めようとした折も折、
「ひょっとしてリナさんのこと?」